Maureen Callahan著「Ask Not: The Kennedys and the Women They Destroyed」

Ask Not

Maureen Callahan著「Ask Not: The Kennedys and the Women They Destroyed

数々の政治家を排出しいまも政治の世界に影響力を持つケネディ一家の男性たちによって利用され、傷つけられ、翻弄された女性たちに注目した本。ルーズヴェルト政権に参加し自分の息子を大統領にするという野望を持ったジョセフ・P・ケネディからジャック・ボビー、テッドの三兄弟、そしてそれに続く世代まで、ケネディ一家が自らを神話化することで暴力やその他の危険な行為を通して女性たちを傷つけ、身体的・精神的な苦痛を経験させ、メディアや政治評論家らを味方につけて責任追及を逃れてきた歴史が綴られる。

本書で触れられる女性たちの多くは、決して何の落ち度もない純粋な被害者だというわけではない。彼女たちは彼女たちなりにケネディ家の権力に惹かれて近寄ってきた側面も多く、三兄弟をはじめとするケネディ家の男性たちが女性を性的な道具として扱い、当たり前のように部下や有名女優を含む周囲の女性たちと浮気を繰り返しても、名声や財産を失うことを恐れて離脱することができなかったり、ケネディ家の男性たちの無謀な行動を止めることができなかった。それは彼女たちに対する扱いを正当化する理由にはならないのだけれど、それをいいことにケネディ家はなんらかの問題が生じるとメディアを味方につけ、女性たちを攻撃したり彼女たちの被害を軽視するような世論を作り出した。

たとえばジョン・F・ケネディ大統領暗殺後にギリシア人富豪と再婚したジャッキー元夫人が「世界一の高級娼婦」と呼ばれたり、運転免許が停止されているのにアルコールに酔っ払って車を運転して橋から落下させ、同乗者の女性を放置して溺死させながら自分だけ生き残り、しかも警察や救急ではなく自分のアドバイザーに電話して通報を遅らせたテッド・ケネディ上院議員が「スキャンダルによって大統領になるチャンスをふいにした」と同情されたことなどがその典型。JFKの息子のジョン・F・ケネディ・ジュニアが大した経験もないのに悪天候のなかわざわざ小型飛行機を操縦して商用機との接触事故を起こしかけたあげく墜落させ同乗していた二人の家族の女性たちとともに死亡した際も、メディアによって「ケネディ家の悲劇ふたたび」とまとめられてしまい、かねてから車の危険運転を繰り返すなど普段から無謀な行動に周囲の女性たちを巻き込んでいた本人の責任は見逃された。

本書が繰り返し告発するのは、ケネディ家の男性たちが自分たちにはどのようなルールも適用されないかのように好き勝手に行動し女性たちを傷つけてきた事実とともに、それを許容していた当時のメディアや社会の環境だ。そうした環境はクリントン大統領の時代にもまだ残っていたが、さすがにmetooを経た現在では通用しなくなってきており、本書はそうした時代の変化を背景としてケネディ一家の神話を再評価する試みとして読める。わたしはケネディ家についてはそれほど興味がなかったのだけれど、この歴史的な変化についての考察は興味深いと感じたし、なによりケネディ大統領の名演説の意味を反転させたタイトルがすばらしいと思った。しかしまあ今年の大統領選挙の結果次第ではケネディ家に対する世間の印象はどうしようもないほど悪化するんじゃないかとも思うんだけど、そうなったら手遅れなんだよなあ。