Mary Brosnahan著「“They Just Need to Get a Job”: 15 Myths on Homelessness」
ホームレス支援団体の代表として30年に渡って曲者揃いの歴代のニューヨーク市長たちと渡り合ってきた著者が、ホームレス問題についての数ある誤解に反論し、問題解決に有効な政策を主張する本。
ホームレスは怠けているだから支援したらさらに怠けるだけ、あるいは麻薬依存症や精神病だからどこかに強制収容するほかどうしようもない、といった偏見は事実に基づかず、ホームレス問題が生じるのは家賃の高騰と最低賃金の停滞が主な原因である、というごく当たり前の話にはじまり、依存症や精神疾患のある人たちも住居がないままだとさらに悪化するばかりだからとりあえず住居を与えてそれから支援を考えよう、というハウジング・ファースト政策の有効性など、まあ新規性はないけれど基本をきっちりおさえている内容。
また本書はGregg Colburn & Clayton Page Aldern著「Homelessness Is a Housing Problem: How Structural Factors Explain U.S. Patterns」に出てくる椅子取りゲームのたとえを引用し、ホームレス人口の増加が貧困や薬物依存などのデータと相関しておらず、地域の発展や住居増設の困難さに原因があることを指摘する一方、住居不足を解消するためにM. Nolan Gray著「Arbitrary Lines: How Zoning Broke the American City and How to Fix It」などが主張する土地利用・建築基準の緩和や撤廃に対しても否定的な見方を示し、行政や非営利団体による住居開発を中心としたソーシャル・ハウジングの政策を勧める。ソーシャル・ハウジングはヨーロッパでいくつか成功例があり、単に規制を撤廃して民間のデベロッパーに任せるより公共的な目的に沿った住居開発ができると主張する。十分な予算が準備できるならその通りだと思うんだけどねえ。