Marc Lamont Hill & Todd Brewster著「Seen and Unseen: Technology, Social Media, and the Fight for Racial Justice」

Seen and Unseen

Marc Lamont Hill & Todd Brewster著「Seen and Unseen: Technology, Social Media, and the Fight for Racial Justice

ミネアポリスで黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に殺されるシーンを動画に撮って2020年夏の全国的なブラック・ライヴズ・マター運動の盛り上がりのきっかけを作った17歳の高校生ダーネラ・フレイジャーさんの行動をはじめ、人種差別との戦いの歴史において人々が絵や写真、映像などをどのように使ってきたか振り返る本。

フレイジャーさんが撮影した動画がフロイド氏殺害に対する抗議運動を爆発的に広めたことは疑いようがなく、フロイド氏の叔母が書いたAngela Harrelson著「Lift Your Voice: How My Nephew George Floyd’s Murder Changed The World」でもそのことは繰り返し言及されていたけれど、反人種差別運動がヴィジュアルを使って差別の残虐性や不当性を訴えるのは昔からあった手法。それはたとえば、黒人のリンチを祝うために南部の白人たちによって広められたイラストや写真を流用して自分の新聞に載せてリンチ批判の主張を書いた黒人女性ジャーナリスト、アイダ・B・ウェルズ(調査報道やデータジャーナリズムの祖ともされている)や、1955年にリンチで殺害された息子エメット・ティルの激しく損壊された遺体をあえてメディアに取材させてその凄惨さを世に訴えたかれの母親、そして非暴力抵抗で警察官らの暴力を一方的に受けるシーンを報道させて世間の良心に訴えたキング牧師をはじめとする公民権運動の活動家たちなど。

タイトルの「Seen and Unseen」というのは、アメリカが建国のときから抱え込んだ「人は平等に作られている」という独立宣言と奴隷制を温存した憲法のあいだにある矛盾を指している。奴隷制や人種差別は誰の目にも明らかなのに、それを容認しつつ同時にそれをまるで見えないようにふるまうアメリカの伝統に対し、反人種差別運動が突きつける写真や映像はその矛盾を暴く。それまで「人種差別なんて過去の問題」と見て見ぬ振りしてきた一般の白人たちは、ソーシャルメディアに流れる写真や映像によって現実に向き合わさせられる。

もちろん白人至上主義者の側も写真や動画を使って警察に殺された黒人たちの過去を暴いて中傷したり、アンティファやBLMが暴力をふるっていると称するシーンを拡散したり、個人を特定して攻撃したりもしている。ジョギング中に白人の元警察関係者らに追い回され殺された黒人男性アーマード・アーベリー氏の事件では、加害者の側がアーベリー氏を追い回す様子を動画に撮影し、それが自分たちの正当性を裏付けると考えて裁判に証拠として提出した。スマホが普及し一般の人が撮影した動画が社会的影響力を持つなか、恣意的な編集やフェイク動画がもたらす危険にも注意する必要がありそう。