Derecka Purnell著「Becoming Abolitionists: Police, Protest, and the Pursuit of Freedom」

Becoming Abolitionists

Derecka Purnell著「Becoming Abolitionists: Police, Protest, and the Pursuit of Freedom

ミズーリ州セントルイス近郊で育った弁護士の卵だった著者が、近くの街のファーガソンで起きた18歳の黒人男性マイケル・ブラウン氏の警察による殺害と、それに対して起きた大規模な抗議運動などに影響を受け、刑務所と警察の廃止を訴えるまでに至った経緯とその理由を書いた本。「廃止論 (abolitionism)」とはかつての奴隷制廃止運動の延長線上に現代の反刑務所・反警察運動を位置づける考え方。憲法修正13条が「犯罪行為への刑罰として行われる場合を除いて」人を隷属させることを禁止したあとも、解放されたはずの黒人たちが現代にいたるまで刑事司法制度を通して隷属させられているという認識に立つ。

著者らが主張する廃止論は、いますぐに刑務所や警察を廃止して犯罪を放置するという主張ではもちろんない。貧困やコミュニティの不全やケアの不足など犯罪の原因となる要因を解消していくとともに徐々に刑務所や警察の役割を削減していき、最終的に刑務所や警察が必要ではない社会を目指す考え方だ。殺人や性暴力についてはどうするんだ、というのは廃止論に対するよくある反論だが、殺人や性暴力がどうして起こるのか細かく分析し、経済的な措置やコミュニティの再建などを通してそれらの原因を取り除こうと提案する。2020年のブラック・ライブズ・マター運動で広がった「警察予算削減」という主張もここから来ていて、単に警察の予算を減らすのではなく、その分の予算をコミュニティの支援にまわそうという主張。

ファーガソンで起きたブラウン氏殺害のあと、多くの人々は「ブラウン氏に正義を」と叫び、かれを殺害した警察官の逮捕と処罰を求めたが、仮に警察の行為を裁くことが限りなく難しいという法制度の問題を乗り越え有罪判決が出たとしても、それでブラウン氏は戻ってこない。度重なる警察による黒人市民殺害への抗議に参加した人たちの多くが、刑事司法の徹底ではなく解体を目指してはじめているさまざまな取り組みが本書ではたくさん紹介されている。