Lonnie G. Bunch III著「A Fool’s Errand: Creating the National Museum of African American History and Culture in the Age of Bush, Obama, and Trump」

A Fool's Errand

Lonnie G. Bunch III著「A Fool’s Errand: Creating the National Museum of African American History and Culture in the Age of Bush, Obama, and Trump

2016年にオープンしたスミソニアンのアフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の初代館長になった黒人歴史家の本。黒人の歴史についての博物館を作るべきだという主張は、南北戦争で自分たちの解放のために戦った北軍の黒人兵士たちの存在を記録すべきだという訴えにはじまり、100年以上も訴え続けられてきたけど実現しなかったもの。2005年にまだ建物も所蔵品も予算もゼロな「博物館」の館長になった著者が、保守的なスミソニアンのカルチャーと葛藤しつつ、さまざまな人たちの支援を受けながら11年かけて(オバマ大統領が現職のうちに!)アフリカ系アメリカ人歴史文化博物館の開館にこぎつけた壮大な物語。出張なんでも鑑定団みたいに各地をまわり(地元の政治家と組んでイベントにして)黒人たちが代々家の地下室に保存していた史料を見つけたり、普通の博物館ではあまりない方法でアフリカ系アメリカ人の歴史を掘り起こす経緯自体が歴史的に価値のある物語になっている。具体的なエピソードをわたしが解説するとどうしても陳腐になってしまいそうなのでみんな読んで。何度も泣いた。

わたしも2017年に見に行ったけど、この本で建築や所蔵品の数々の背景や設置にかかわった人たちのストーリーを知ってさらに興味が湧いたので(あと単純に、過去4年でわたし自身の歴史についての知識が増えてより所蔵品を理解できる気がするので)、また行きたい。6時間くらい時間取る。黒人のための博物館ではない、黒人の歴史はアメリカの歴史だ、という主張のおかげか、博物館の設置や場所の選定(ワシントンモニュメントの近く)に助力したのがジョージ・W・ブッシュ大統領だったりかれよりさらに保守的なサム・ブラウンバック議員だったりするのが意外。逆に、就任直後のトランプが奴隷貿易についての展示を見学しオランダの関与について書かれている部分を見て「オランダでは俺様は人気なんだぜ、ガハハハ」(やや悪意ある翻訳)と言い放ったというエピソードは意外性がなさすぎて笑う。いや本当にオバマ在任中に開館できてよかったよ。