Liz Cheney著「Oath and Honor: A Memoir and a Warning」

Oath and Honor

Liz Cheney著「Oath and Honor: A Memoir and a Warning

2021年1月の連邦議事堂占拠事件のあとトランプの弾劾に賛成票を投じ、下院特別委員会の副委員長として事件の究明に努めた結果、下院共和党ナンバー3の地位である党会議議長の座を追われ、次の予備選挙でトランプ支持派の候補に敗れた前下院議員リズ・チェイニーの本。

サブタイトルにメモワールとあるので普通の政治家の自叙伝かと思ったけど、2020年大統領選挙の投票日から現在までのトランプによるクーデター未遂とそれに対する真相究明・責任追及にフォーカスした内容。キャリア外交官から法律家・保守政治家に転身した彼女のこれまでの経験や父親であるディック・チェイニー元副大統領との関係についても興味がないわけではないけど、本書の内容を2020年大統領選挙以降の話題だけに絞っていることから、彼女がトランプによる選挙結果と憲法秩序の否定をどれだけ重く見ているか分かる。

選挙直後からはじまり結果が確定し各州が投票人を認定した12月11日、そして投票人票を下院が集計する最中にそれを阻止しようとトランプ支持者たちが議会を襲撃した1月6日、その後のトランプに対する二度目の弾劾裁判やチェイニーが副委員長となった下院特別委員会の審議、そして2022年中間選挙とその後の2024年大統領選挙に向けて現在進行中の共和党予備選挙まで、時系列を追いながら、合法的に選挙結果を覆すことに失敗したトランプがますます手段を選ばなくなっていく過程と、その結果議会襲撃を許してしまったトランプとの決別を決意した共和党主流派がつぎつぎとその意志を失い、トランプによる事実の否定に加担していった様子が描かれる。

正直なところ、わたし自身は下院特別委員会の公開審議が行われるころにはこの問題にうんざりしてたので中継は見なかったし委員会の報告書も読んでいなかった。その日の審議の主な内容についてはニュースやソーシャルメディアで軽く目にしていたので多少は知ったのだけれど、本書を読んであらためてチェイニー議員をはじめ特別委員会の人たちがどれだけ慎重に、そしてどれだけの覚悟を持って大統領による民主主義への攻撃に立ち向かったのか認識した。

また、トランプが各州の選挙管理責任者や議員たちに圧力をかけたり軍や司法省の責任者を自分の言いなりになる人たちにすげ替えて選挙結果を覆すために利用しようとするなどした際、それに抵抗した多くの、ほとんどは共和党員だったり保守主義者の政治家や官僚がおり、かれらが右派メディアによる攻撃やトランプ支持者による暴力に晒されながら事実を証言したおかげでかろうじてトランプの企みが失敗に終わったことを指摘したうえで、「もしトランプが大統領に返り咲いたら、今度ははじめからトランプの越権行為に抵抗しそうな人物は周囲から排除されるだろうから、次はない」と警告。ほんと、「確かにトランプは無茶苦茶やろうとしたけど、結果失敗したじゃん、アメリカの民主主義は大丈夫だよ」などと楽観視してはいられない。