Lenny Duncan著「Psalms of My People: A Story of Black Liberation As Told Through Hip-Hop」

Psalms of My People

Lenny Duncan著「Psalms of My People: A Story of Black Liberation As Told Through Hip-Hop

元囚人からキリスト教の牧師に転身しさらに教会を離れた黒人トランスマスキュリンな著者が、黒人解放のためのスピリチュアルな聖典としてのヒップホップに向き合う本。

N.W.A.の「Fuck tha Police」から始まり多数のヒップホップのリリックを引用しながら著者自身もそれらに応答するようにリリックと散文を混ぜ合わせて綴る本書は、本としては短めだけれど黒人教会の牧師の説教としては少し長め、そして一つのアルバムとしてはかなり長めの内容。黒人クィアやトランスの先輩や仲間に本書を捧げながらも、女性差別的やホモフォビック・トランスフォビックな言動で知られるアーティストにも触れているが、そうした問題点もきちんと指摘されているので安心して読める。

ヒット作「Jesus Walks」で「わたしたちは何よりも自分自身と闘っているんだ」と語っていたカニエ・ウエストがその闘いの末どうしてああなってしまったのか、ローリン・ヒルのソロデビュー「The Miseducation of Lauryn Hill」がヒットした1988年に何が起きていたのか、など興味深い話題を多数取り上げたあと、ケンドリックやコモンなどに黒人解放活動家アサタ・シャクールの言葉が引用される理由で締めくくる。