Leisha Hailey & Kate Moennig著「So Gay for You: Friendship, Found Family, and the Show That Started It All」

So Gay For You

Leisha Hailey & Kate Moennig著「So Gay for You: Friendship, Found Family, and the Show That Started It All

2004年から2009年にかけて放映された、ロサンゼルス・ウエストハリウッドに住む(主に中流上層白人の)レズビアンやクィアたちを描いたテレビドラマ「The L Word」(邦題『Lの世界』——ってwordとworld間違えてない?)のメインキャストを演じた中の「本物の」レズビアン俳優二人が、自身の生い立ちから撮影の裏話まで語る本。

わたし、当時第一シーズンしか観てなかったんだけど、その後そんなに迷走してたとは、というのがまず驚き。著者たちも認めるとおり、「The L Word」は裕福な人しか住めないウエストハリウッドを舞台にしていることもあって、個性的なキャラクターがたくさん登場するとはいえ人種的・階級的に限られていて、しかも主流メディア向けに作られていることから、ほとんどの女性たちは普通にヘテロ的な魅力要素を詰め込んだフェミニンな外見。性的な描写もいかにも異性愛者男性の目線に合わせた描かれ方をしていて、当時からそれは批判されていた。著者たちは制作スタッフには多数のクィア女性がいたことを指摘し、女性だって女性を性的対象化した目線を向けることができるんだと言うんだけど、「この描かれ方は男性目線ではないか」どころの話ではなく、物語の中で実際にヘテロ男性が隠れて女性たちのセックスを盗み見たり撮影するシーンがあったりして、それがわたしが苦手に感じた理由だった。

最終第六シーズンではメインのうちの一人が周囲の人たち全員から恨みを買ったあげく殺されて遺体として発見され、犯人が誰なのか明かされないまま登場人物たちが警察に連れて行かれるシーンで終わるというわけのわからないエンディング。「犯人は誰か?」と宣伝されたけど、そもそもミステリーとして綿密に描かれているわけではないので誰が犯人なのか推理するだけの情報もない。プロデューサたちは次回作として登場人物のうちの一人が犯人として刑務所に入れられたあとの話を制作しようとしていたけどボツを食らって終わったらしい。そりゃボツになって当たり前だろファンを馬鹿にすんな。

最後はそのようにありえないほどの迷走を見せたけれど、本書に描かれた撮影現場のエピソードはおもしろいし、ドラマの中心人物を演じたJennifer Bealsが現場で撮った写真とともにキャストのインタビューを載せた写真集「The L Word: A Photographic Journal」(今年4月発売)と合わせて読むとさらに当時の様子が分かって楽しい。第一シーズンしか観てないとはいえ、周囲にはファンとしてずっと観ていた人もいたし(地元のレズビアンバーで毎週ウォッチパーティが開かれてた)、レズビアンやクィアの登場人物が普通にテレビドラマに出てくるようになる過渡期の作品として大きな影響力があったのも確か。あと、当時わたしの部下だった(髪を丸刈りにしている、見るからに)クィア女子のパートナーがこのドラマのスタッフをやっていて、撮影が行われたバンクーバーに彼女がパートナーを訪れた際、スタッフやキャストが集まったパーティに参加したのだけど、あまりにキャラとして出来上がっていたせいで周囲に近いうちに出演する俳優だと思われたらしい。いや関係ないけど。

2019年にはドラマ終了時点から10年後の世界を描いた「The L Word: Generation Q」(『Lの世界 ジェネレーションQ』)としてリブートされ、著者らも元の役で再登場したが、時勢に合わせてより人種的にもアイデンティティの上でも多様になった新たな世代と対比されて古い世代として描かれ、不満があった様子。また見かけ的には多様性が増したように見えるけれど、差別が和らぎ同性婚が実現するなど社会がクィアたちに寛容になった結果、クィアたちも普通に就職・結婚・出産といったヘテロノーマティヴな人生を展望するようになり、むしろ画一化しているのではないかという指摘も。

まあわたしはそれほど観てなかったので「へえそうなのねえ」と思っただけだけど、当時ファンだった人にとってはあのリーシャとケイトが書いた本というだけで(ジェニファーの写真集とあわせて)かなりアガるんじゃないかなと。著者たちは「PANTS with Kate and Leisha」というポッドキャストも配信しているようなので興味があれば。