Aymann Ismail著「Becoming Baba: Fatherhood, Faith, and Finding Meaning in America」

Becoming Baba

Aymann Ismail著「Becoming Baba: Fatherhood, Faith, and Finding Meaning in America

エジプト人移民の息子としてニュージャージー州で生まれ育ったジャーナリストの著者が、9/11事件以降のアメリカでムスリムであることの困難を抱えつつ育った子ども時代や家族の関係から、自身が父親になるまでを綴った自叙伝。

著者は移民の子どもが多く通うムスリムの学校に通っていたのだけれど、男女が隔離され言葉遣いにも厳しいムスリム学校とはいえ男の子たちが集まれば女の子や性の話題で盛り上がったり、タブーとされた言葉を仲間内で言い合ったりと、アメリカ人の男の子だなあという感じでおもしろい。良いムスリムであれと育てられ、良いムスリムとは何なんだろうと自問するも、9/11事件のあとムスリムへのヘイトが激化し学校にも爆破予告が寄せられるなどして、はじめて著者は一般の学校に転校する。そこで出会った、ブロンドの髪をスカーフで隠そうともせず風に揺らす同世代の女の子たちにドキドキする著者、ある意味キモいんだけどかわいい。

慣れない土地で家族を養うために必死に働く父親と、エジプトやアメリカの他の地域に離れて住む家族や親族との関係を維持しつつ良いムスリムを育てようと必死な母親に育てられた著者だが、やがてムスリムの女性と恋愛し、彼女が妊娠したことで、自分はどのような父親になるのか、どのように伝統を受け継ぎ、また更新し、子どもに伝えるのかと悩みだす。エジプトに行きせっかくなのでジャーナリストとして「アラブの春」に関連した取材活動も行おうとするもののCIAのスパイだと疑われて危ない目にあったりもするけれど、自分はアメリカ人だけれどエジプトの文化や人々と繋がっていることを自覚し、生まれてくる息子にもその繋がりを伝えることを望む。

そういえばあんまりシスヘテロ男性の自叙伝はこれまで読んでこなかったのだけど、ムスリムが圧倒的に少数派なアメリカでムスリムとして育ち、またムスリムとして生きるとはどういうことなのか考えざるを得ない状況に置かれた著者の経験にはこれまであまり知らなかったことが書かれていておもしろかった。表紙の画像、いい感じにかわいくて憎たらしいのがいいと思う。