Lawrence Lessig & Matthew Seligman著「How to Steal a Presidential Election」

How to Steal a Presidential Election

Lawrence Lessig & Matthew Seligman著「How to Steal a Presidential Election

民主主義を救う使命に目覚めていらい(2016年には大統領選挙に立候補したり)迷走が続くラリー・レッシグせんせーの新著。大統領選挙で負けた側が選挙結果を覆して政権を取るさまざまな可能性をあげ、それが2024年大統領選挙で、あるいは将来の大統領選挙において実行される危険性とそれを防ぐために必要な法改正について論じている。

著者らによれば、2020年から2021年にかけてのトランプによる選挙結果転覆の試みによってもたらされた民主制の危機は、多くの共和党員や保守派を含む各地の選挙管理責任者や判事、議員やペンス副大統領がきちんと抵抗したほか、トランプのやり方が下手だったこともあり、運良く切り抜けることができた。しかしその後トランプの党内での影響力は衰えることなく、いくつもの州において選挙結果転覆をやりやすくするような法改正が行われていることもあり、次はないかもしれない。

とくに危険なのは、選挙結果が2020年よりさらに接戦となった場合だ。2020年の選挙ではバイデンは競合州の多くで勝利し、しかもそれぞれの州での得票差も接戦とはいえ数え間違いで左右されるほど小さくはなかったので、選挙結果が間違っていると主張するためには荒唐無稽な陰謀論に頼らざるをえなかった。しかしこれがたとえば2000年のブッシュとゴアのフロリダ州の票差のように数百票から数千票に過ぎない得票差だった場合、小規模な不正やミスでも選挙結果に影響を与えたと主張することが可能になり(現に2000年のフロリダ州では、最高裁の判決により再開票が途中で中止されブッシュの勝利が確定したが、のちに第三者による監視のなか研究者が再開票したところ最終的にはゴアの得票のほうが多かった)。選挙結果が信用できないという主張に単なる陰謀論を超えたある程度の信憑性さえあれば、好みの候補を勝たせたい州議会や州知事などが結果を覆す強い動機を与えてしまう。

2022年には大統領選挙における投票人の票をどう認定するかを定めた法律が1887年以来はじめて改訂され、副大統領にはどの投票人の票を認めるか決める権限がないことなどが定められたが、ある州から送られた投票人のリストが複数存在するときに州知事が送ったものを優先すると決めた規則など、州知事の行動によっては選挙結果を覆すことに悪用される要因もある。また、どんなに法律で規則を決めても議会が勝手に大統領を選んでしまえばそれを止めることができる機関は存在しないため(裁判所がどう判断しても、裁判所自体にはその命令を実行する強制力がない)、究極的には大統領の座が盗まれることを法律は止めることができない。わたしはアメリカ憲法オタクなので憲法や法律について新しいことを知るのはとても楽しいのだけど、最後に「現実には法律や憲法なんて無力だよね」ってぶっちゃけられたの、やられた。

アメリカの大統領選挙がこんなに脆弱になってしまった大きな理由は、市民が大統領を直接選ぶのではなく投票人に投票し、それぞれの州で多数派だった党がその州の投票人を独占する制度のせいでもある。もし全国の投票により多くの票を取った人が当選する制度なら、いくつかの州の結果が接戦だったくらいでは選挙結果は変わらないし、結果を覆すほどの大規模な不正が全国で行われていたという陰謀論も支持を集めにくい。そりゃそうだよなあ。とりあえずいまやらなくてはいけないことは、今年2024年、トランプやその支持者たちに「これほど僅差なら屁理屈をつけて選挙のごく一部だけでも無効にすれば結果がひっくり返るかも」と思わせないように大差をつけて倒すことだ。