Jake Adelstein著「The Devil Takes Bitcoin: Cryptocurrency Crimes and the Japanese Connection」

The Devil Takes Bitcoin

Jake Adelstein著「The Devil Takes Bitcoin: Cryptocurrency Crimes and the Japanese Connection

ヤクザの取材で知られる日本在住のアメリカ人ジャーナリストで元読売新聞記者の著者が、在日フランス人マルク・カルプレスが経営していた当時世界最大のビットコイン取引所マウントゴックスで起きた巨額の資金流出事件について書いた本。原著は2019年出版のフランス語版。本書はマウントゴックスの資金がどこに消えたのかという問題とともに、ビットコインを考案したサトシ・ナカモトとは誰なのか、ビットコインを使って麻薬の売買が行われていたダークウェブのサイト・シルクロードを運営していたのは誰なのかという3つの謎をめぐって進行する。

もともと著者は日本のヤクザ・暴力団についての著作で国際的に知られていたが、シルクロードにおいてビットコインを使った麻薬売買が行われていることが話題になり、そのシルクロードがユーザたちにビットコインを入手する方法としてマウントゴックスが紹介されていたこともあり、日本のアンダーグラウンドについて詳しいジャーナリストと英語圏で思われていた著者のもとにサトシ・ナカモトやマウントゴックス、シルクロードについて調べろという依頼が集中する。著者はおそらくサトシ・ナカモトは実名ではないだろうと思いつつ、日本中の電話帳から「なかもとさとし」さんを探し出して一人ひとり連絡してみたり、マウントゴックス経営者のカルプレスが実はシルクロードを運営しているのではないかという疑惑について調べたりと、ビットコインに関連した取材をはじめていく。

結局サトシ・ナカモトは見つからないし、シルクロードはマウントゴックスとは無関係だったけど、著者はどうみても取材対象としての関係を超えて同じ日本在住の白人であるカルプレスと意気投合してのちに警察の捜査を受けるカルプレスにアドバイスをしたり手助けしている。もともとアニメ好きが講じて日本に移住したカルプレスは「東京で仕事に使うラップトップを置き忘れても誰かが警察に届けてくれた、日本は素晴らしい」と語る日本好きだけど、ビットコイン取引所を運営する人が仕事で使うラップトップを街の中に置き忘れてしまうというのは明らかに問題で、やっぱりというかなんというか、セキュリティの不具合を放置していたせいでマウントゴックスは巨額の資金流出を起こしてしまい、破綻に追い込まれる。

カルプレスはマウントゴックスの破綻を装って資金をどこかに隠していると疑われ、実際に逮捕・起訴されたが、業務上横領などの罪では無罪となる。著者はカルロス・ゴーンの件なども挙げながら、別件逮捕を繰り返すことや弁護士の同席しない密室の取り調べ、人質司法と呼ばれる長期的な勾留、有罪ありきの裁判など日本の刑事司法の問題点を挙げ批判する。実際、のちにマウントゴックスから資金を奪ったのはロシア人の犯人だと分かったように、カルプレスは単に東京の街なかにラップトップを置き忘れるような金融サービスに関わってはいけない人だったというだけの話だった。ただ日本の司法制度への批判はもっともなんだけど、わたしの経験だと、とくに貧しい人にとってアメリカの司法制度がそれより人道的だとか優れているとは到底思えなかったり。

マルク・カルプレス自身も2019年に『仮想通貨3.0』という本を出しているみたいなんだけど、これって英語版出てないのかな…見つからない。著者略歴を見たら「日本のアニメや漫画に造詣が深く、『アニメソムリエ』の異名を持つ」と書かれてたけど、誰が呼んでるんだ。