Kali Nicole Gross著「Vengeance Feminism: The Power of Black Women’s Fury in Lawless Times」
19世紀から20世紀序盤にかけ、法制度の保護を受けられない黒人女性たちが自分と子どもたちの安全を確保するため、汚された名誉を回復するため、そして自由と生存を勝ち取るため、銃やナタ・ブラックジャックなどの武器を手にとって男たちに立ち向かった「復讐のフェミニズム」の系譜を当時の裁判記録や報道などから発掘し紹介する本。
すぐに感情的に怒る、攻撃的、といったネガティヴなステレオタイプが黒人女性に向けられるなか、実際に復讐のために武器を使った黒人女性たちの歴史を掘り起こすことには差別を強化しかねないリスクがある。しかし著者は、彼女たちの行動をデモや平和的抗議、署名活動などといった合法的な抵抗と対を成す黒人女性によるフェミニズムの一種と捉え、彼女たちが取った直接的な行動と、黒人女性に対する偏見を逆手に取った法廷戦術などを紹介する。それは、合法的に制度的な保護を受けることができなかった当時の黒人女性たちにとって、自分の安全と名誉を守るための唯一の手段だった。
著者自身も認めているように、本書で取り上げられている事例の多くは現代の基準でも正当防衛が成り立つものではないし、倫理的にも正当化が難しいものも少なくない。彼女たちの多くははっきりと法を犯して他人を傷つけたし、現代で同様の事件があったとしても有罪になっていたはず。にもかかわらず差別的な制度や社会的偏見を逆手にとって無罪になったケースもあり、ある意味痛快だったりする。