Jill Ciment著「Consent: A Memoir」
1996年に出版された自叙伝「Half a Life」で10代のときに絵画の先生として知り合った30歳近く年上の既婚者の男性を誘惑し付き合った経験について赤裸々に書いた著者が、それから30年近い時とmetoo運動を経て変化した社会情勢のなかでかつての自分の主観を振り返り考え直す本。
著者の最初の自叙伝が出版された当時はクリントン大統領がインターンとして働いていたモニカ・ルインスキーさんと不倫したスキャンダルで大騒ぎになっていたころ。当時クリントンの支持者たちが大統領の不倫はかれ個人の問題であり大統領の職務とは関係ないと擁護した一方で、ルインスキーさんは目上の権力者を誘惑する性的に乱れた女性として中傷に晒された。当時、わたしの周辺の若いフェミニストたちはそうした世間の非難の目とは裏腹に、ルインスキーさんを「大統領を誘惑したすげーやつ」として逆に尊敬と羨望の眼差しを向けていたのだけれど、著者が最初の自叙伝を出したのはそういう時代。それに対し現代ではクリントン大統領の行為は「年の離れた権力者の男性による若い女性の性的搾取」だと解釈され、ルインスキーさんが当時どれだけメディアやコメンテータに中傷されたかという反省の声も出てきている。
内容については詳しく触れないけれど、本書はそうした世論の変化を受け、著者が自分の生きてきた過去を再評価するところが魅力。ちなみに絵画の先生は当時結婚していた女性とは離婚し、著者と再婚して、最近亡くなるまで著者とそれなりに幸せに暮らしてきたので、かれと結びついたこと自体を間違っていたとは思っていないけれども、その出発点に問題があったことに向き合い、もし当時の自分に声をかけられたとしたら何と言っただろうかと著者は考える。