Marcos Gonsalez著「In Theory, Darling: Searching for José Esteban Muñoz and the Queer Imagination」

In Theory, Darling

Marcos Gonsalez著「In Theory, Darling: Searching for José Esteban Muñoz and the Queer Imagination

メキシコ系アメリカ人クィア男性でラテン系アメリカ人文学とクィア理論の研究者である著者が、同じラティーノのクィア理論家として強い影響を受けたがその早すぎる死の前に直接会うことができなかったホセ・エステバン・ムニョスに対して捧げる本。

キューバ系アメリカ人の批評家・クィア理論家だったムニョスはたった二冊の単書しか出さないまま46歳で亡くなったが(没後に残された原稿から三冊目が出版された)、非白人クィアのパフォーマンスやアートについて論じたデビュー作『Disidentifications: Queers of Color and the Performance of Politics』(1999)やネガティヴィティや死・破滅に向けられたクィア理論の当時のトレンドに対抗して非白人クィアにとってのまだ見ぬユートピアを構想した『Cruising Utopia: the Then and There of Queer Futurity』(2009)はどちらも大きな反響を呼び、クィア理論の基本文献となったほか今でも強い影響を持つ。

本書は著者の子どものころの思い出やエイズで亡くなった親戚とかれに対する一家の困惑とともに、大学時代に触れたクィア理論、とくにラティーノのクィアである自分の存在とはじめて共鳴したムニョスの文章との出会い、そしてそこに感じた可能性などを、ムニョスが採用したクルージング的な文体を一部模倣しながら、書き連ねていく。著者がムニョスの文章に出会ったときの衝撃と歓喜は、わたしにとっては大学の女性学の授業ではじめてオードリー・ロードやグロリア・アンサルドゥアの著作に出会ったとき、そしてのちに日系アメリカ人でレズビアンの詩人・活動家で性虐待サバイバーのミチヨ・フカヤについて知ったときに感じたものと通ずるものがありそうで、とても共感できる。

ムニョスの本では非白人クィアたちを対象とした「Disidentification」より白人のクィアたちへの希求力を持つ「Cruising Utopia」のほうが注目されがちで、前者が無視されることが多いのだけれど、本書が少しでも前者のさらなる評価につながればいいなと思う。