
John Y. Campbell & Tarun Ramadorai著「Fixed: Why Personal Finance Is Broken and How to Make It Work for Everyone」
住宅ローンや保険、年金など一般の人にとって身近な金融サービスが、長年続いた規制緩和の結果、資産管理にコストと手間をかける余裕がない一般消費者を搾取し、そうした余裕のある富裕層に利益を集中するようになっている実態を告発する本。著者らは金融や投資の専門家で、Campbellは投資についての硬い本が日本語でも出版されている。タイトルの「fixed」は基本的に「修復された」という意味ではなく、「仕組まれた、八百長」という意味の方。
日本語で「消費者金融」というとかつて「サラ金」を呼ばれ社会問題化した個人向けの小口融資事業を指すけれど、本書が「consumer finance」と呼ぶものはそれよりはるかに広く、普通の預金口座から住宅・学生ローンなどの借金、さまざまな保険、さらには株式やその他の金融商品への小口の投資なども全て含む。よく知られているようにアメリカでは1980年代から進んだ規制緩和によりその間口は増え、金融市場が活発化したが、2008年の金融危機をはじめたびたび大きな問題が起きており、そのたびに一般消費者を食い物にする業態が明かされ、規制の動きがあったものの、数年後にはまた規制緩和が進むといったサイクルが繰り返されてきた。最近では金融業界は富裕層に有利に仕組まれている、としてその外側にある(あった)暗号通貨への投機が宣伝されるなどしたが、なんの規制も受けないそれらの業界はさらに搾取的だったり不安定だったりして一般の人々の資産を脅かしている。
裕福な人は余裕があるからこそ、さまざまな金融商品や業者を比較して少しでも自分に有利なものを選ぶことができる。かれらを顧客につけるために業者はさまざまな形でかれらに有利な条件をオファーするが、その原資となっているのは比較する余裕のない多くの貧しい人たちが払っているさまざまな手数料やペナルティなどだ。ここには有利な金融商品への投資の案内はもちろん、より有利なポイント還元のあるクレジットカードや有利な利息のつく貯蓄口座なども含まれ、とくに投資をしようとしなくてもある程度の資産があるだけでその資産を増やす機会が与えられる。貧しい人たちから吸い上げた資産が裕福な人たちに分配される仕組みは規制緩和の進行とともに広がり、階層の固定化と貧富の差の拡大の原因の一つとなっている。
金融システムをより公平なものにするためには、政府による強力な規制が必要。搾取的な構図を隠すために仕組まれる複雑な金融商品を一掃し、比較が容易な標準化された金融商品の透明な市場を実現するほか、過剰なリスクのある金融商品は禁止するか一般的な市場から隔離する、一般消費者が迷わず頼れる基準となる金融商品を提示する、などさまざまな施策が本書ではあげられるが、そのどれにしても現行の金融システムにより利益を得ている——そしてもしなにか問題が起きても政府が救済してくれると期待している——富裕層や金融業界の抵抗を受けるのは確実。そのあたり、エリザベス・ウォレン上院議員や彼女の弟子たち(「I Swear: Politics Is Messier Than My Minivan」著者Katie Porterや「Unjust Debts: How Our Bankruptcy System Makes America More Unequal」著者Melissa B. Jacobyら)たちの存在は貴重だと思うし、搾取的ビジネス慣習の規制を進めたバイデン政権の施策は良かったんだけれど、でもそれが今は貧困層どころかアメリカ政府そのものを食い物にし、暗号通貨などを通して利益を得ようとする人たちが権力を握ってしまっている。いつか政権が代わり、金融システムの改善に手を付けられそうになった時にまた手にしたい。