Frederic Block著「A Second Chance: A Federal Judge Decides Who Deserves It」
第一次トランプ政権時代の2018年に成立したファースト・ステップ法に基づいて保釈や刑期短縮を求める受刑者たちの訴えを裁いてきた連邦判事が、どのような考えに基づいて判断してきたのか述べつつ、公正な刑罰はどうあるべきか考える本。
ファースト・ステップ法は、「法と秩序」を重視し刑事司法改革を訴えるブラック・ライヴズ・マター運動と対立していたトランプ政権が例外的に推進した法律。その直接のきっかけとしては父チャールズが違法政治献金や捜査妨害などの罪で実刑判決を受けた(のちにトランプによって恩赦)ジャレド・クシュナー(トランプの娘イヴァンカの夫)の影響があったが、1980年代から1990年代の刑罰重罰化の流れによって長期に渡って刑務所に収容されていて釈放の見込みもない受刑者たちが高齢化し、身体的にも心理的にも再犯のおそれがほとんど解消されたり、認知症によって犯行の記憶すら持たない人が増えてきたことがその背後にある。
高齢化し「自宅で家族に囲まれて死にたい」と著者の前に訴えでてくる受刑者たちは、黒人の一般市民を性的虐待した元警察官や、対抗組織との抗争で数十人の殺害に関与したマフィアの元幹部、子どもの性的虐待を行ったとされる人(著者は無実の可能性があると言っているけど)など、まあ通常なら同情の対象とはなりにくい人たち。しかし「保釈のない無期懲役」や数百年にも及ぶ超長期刑が存在し、さまざまな法律により保釈が制限されているアメリカでは、かれらも数十年の禁固刑を経て年老いて、社会に対する危険は著しく減少している。さらに2020年には刑務所内でCOVID-19が大流行し、重症化しやすい高齢の受刑者たちの命が危険に晒されただけでなく、かれらの生存のために必要な最低限の医療や介助を届けることも困難になるなどしたが、ファースト・ステップ法によってとくに釈放しても問題がないと判断された多くの受刑者たちが釈放された。
かれらが犯した罪の重大さを認めつつ、個々の受刑者について細かく事実を検証し迷いながら公正な判断を下そうとする著者の姿勢は真摯であり、最終的にどういう判断を下したか、という説明もそれなりに説得力があるのだけれど、しかし受刑者が刑務所の中で死ぬのか家族のもとに戻れるのか判断しているのが一人の人間で、どういう判事が担当するのか、その判事がどういう考えで、何に共感する人なのかによって決まってしまうのは、制度として不公平感と不安を感じざるを得ない。本書で取り上げられている事例の一つ一つを取っても、誰が見ても同じ判断をするだろうというケースはない。
とはいえ、ファースト・ステップ法は1980年代から1990年代にかけて理不尽なほどに重罰化が進んだ時代の後始末として必要なものだし、罪を犯して刑罰を受けた人が更生してせめて人間的な老後を送れるような機会を増やすことは大切。著者が言うとおり、ファースト・ステップ法は連邦裁判所によって有罪判決を受けた人たちだけにしか適用されないが、アメリカの受刑囚のほとんどは各州の裁判所によって刑務所に拘束されており、それぞれの州でも同様の法律が必要。