Dennis Yi Tenen著「Literary Theory for Robots: How Computers Learned to Write」

Literary Theory for Robots

Dennis Yi Tenen著「Literary Theory for Robots: How Computers Learned to Write

マイクロソフトでエンジニアとして働いた経歴を持ちコロンビア大学で文学を教える変わった研究者による「ロボットのための文学理論」の本。と言いつつ実際にはロボットではなく人間のために書かれた本だし(もちろんロボットも読んでデータベースに組み込むけど)、文学理論でもない。生成的AIがどこから来たのか、AIどころかコンピュータが生まれるよりはるか以前の歴史に遡り探る本。

生成的AIは画期的な新しい技術として社会に受け入れられているが、その実、世界中の大勢の人たちが生み出してきたテキストやコンテンツを元にした新たな共同的な創作のツールという意味では、これまでに発明されてきたかつての新技術や新発明とかわらない。いまのコンピュータにあたりまえに入っているワードプロセッサーやその中で動いているスペルチェッカーなどはもちろん、古くは辞書や百科事典、そして19世紀に流行った「小説の書き方」を指南する本の数々など、それぞれが登場した時代においては驚きをもって受け入れられたさまざまな技術や発明も、現在の生成的AIと同じように、当時の多くの人たちが生み出してきた小さな技術や発明の蓄積から成り立っていた。生成的AIが生み出すテキストやコンテンツは、コンピュータが作ったのでもプロンプトを考えた人がコンピュータの助けを得て作ったのでもなく、その背後にいる無数の人たちとの共同作業によって生み出されたものだ。

もちろん生成的AIとこれまでのツールとでは、その能力に大きな違いがある。それはたとえば、オートマチックトランスミッション(AT)と自律運転車の技術的な違いのようなものだが、AT車だって登場したときには複雑な作業を自動化した画期的な技術として受け入れられた。いずれにせよ、AI自体が車を運転するのでもテキストを生み出すのでもなく、多数のエンジニアやものを書いたり車を運転してきた一般の人たちの作業の積み重ねがAIという技術によって統合され出力されているのであり、それが多くの人間の共同作業の結果であるという視点はおもしろい。