Erica Frantz, Andrea Kendall-Taylor, & Joseph Wright著「The Origins of Elected Strongmen: How Personalist Parties Destroy Democracy from Within」

The Origins of Elected Strongmen

Erica Frantz, Andrea Kendall-Taylor, & Joseph Wright著「The Origins of Elected Strongmen: How Personalist Parties Destroy Democracy from Within

民主的な選挙で選ばれながら民主主義を破壊しようとする権威主義的な指導者が世界中で増えていることについて、その要因として指導者個人によって設立された政党や政治運動、あるいは私物化された既存政党の存在に注目する本。

民主制における権威主義的な指導者の増加や民主主義への危機については、社会の分断化やポピュリズムの増長といった説明がなされることが多いが、社会の分断やポピュリズムが権威主義的な指導者を生み出しているのか権威主義的な指導者が社会の分断やポピュリズムを煽っているのかという形で因果が不明だったり、はじめ先進的な指導者とされていた指導者が権威主義化した結果としてポピュリストとして認識されるようになったりするなど、説明能力に疑問がある。それに対し政党が私物化されているかどうかは、指導者本人が政党を設立したかどうか、その資金が指導者本人と繋がっているかどうか、指導者の側近となる人たちの経歴はどうかといった形で「権力を握る前」の時点のデータから判断することができ、そういった指導者が権力を握ったときにどういうメカニズムを通して民主主義が危機に陥るか計量的に検証できるという点で有利。

本書では、裁判所の閉鎖や判事の入れ替え、議会解散、メディア統制、選挙の不正や選挙結果の妨害などをもとに他の研究者や国際団体が作成している「民主主義の劣化」に関する指標と著者たち自身によって作られた「政党私物化」の指標を組み合わせることで、政党の私物化が民主主義の劣化に強く関連していることを鮮やかに指摘する。それに対して、ポピュリズム一般には言われているほど危険はなく、民主主義を脅かすのは私物化された政党を率いる指導者がポピュリズムを扇動して権力の座についた時だけ。中南米からアジア、アフリカ、ヨーロッパまで豊富な実例を具体的に挙げながら、多くは政治経験がほとんどない指導者たちがどのようにして新たな政治勢力を立ち上げ、選挙に勝って権力を得たあと、民主主義を破壊したのか検証する。

本書はそのメカニズムとして、仮に裁判所や議会、メディアなどを強権によって従えたところで、それまで政権を担ったことがある既存政党のなかには指導者個人に地位やキャリアを依存しないエリート層が存在し、無謀な指導者の行動に追随するインセンティヴが乏しいことを挙げている。かれらは過去にも選挙のたびに勝ったり負けたりを繰り返し、政権に就いたり離れたりを経験しており、特定の指導者の浮き沈みによって立場を左右されないし、一時的に権力の座を追われてもまた返り咲くことができる。それに対し私物化された政党の指導者の周囲には、実績や経歴ではなく忠誠心によって取り立てられた取り巻きが多く、かれらはその指導者が失脚してしまえばあらゆる権力を失い二度と立ち直れない。その結果、既存政党は自分たちが支える指導者による民主主義からの逸脱を押し留める役割を果たすことができる(ことが分かっているから、指導者自身もそもそも逸脱しようとしない)のに対し、私物化された政党は民主主義を破壊してでも権力の座にしがみつこうとする。

安定した民主主義国家と思われていた先進国で民主主義を破壊しようとしたアメリカのトランプ大統領と韓国のユン大統領はともに既存政党に加入して立候補したという点において自ら政党を立ち上げたフジモリやチャベス、エルドアンらとは異なるが、大統領選挙に出るまで政治家として活動しておらず政党内に基盤を持たなかったところは同じ。どちらも直接のクーデターは未遂に終わったが、トランプは伝統的な既成政党である共和党の私物化を完成させ復活し、アメリカの民主主義が本当に脅かされるのはこれからだと暗い気持ちになる。