Emily Macrae編著「Living Disability: Building Accessible Futures for Everybody」
カナダの障害者ライター・活動家・アーティストらによる論集。住居や歩道といったスペースから恋愛、仕事、セクシュアリティ、老化など人生のさまざまな側面について、35人の多様な障害、そして人種やジェンダー、宗教の人たちが証言する。
本書の特徴の一つは、英語を母語としない読者や文章の読解が困難な読者のために全てではないけれど多くの章に付けられた「やさしい要約」だ。読書が得意というか少なくとも内容を理解するのに問題がないわたしにとっても、章の内容がわかりやすく簡潔に要約されたまとめを読んで改めて内容を復習できるというカーブカット効果(車椅子を使う障害者のために歩道の段差を無くした結果、買い物カートやベビーカーを使う人など障害のない人にも正の外部性が生じる効果)があった。
また、このところ障害に関係した本を読むと、一部の有名なディスアビリティ・ジャスティスの人たち(まあだいたいわたしの友だちなんだけど)ばかりが頻繁に取り上げられていて、かれらの声だけ押さえておいたらいいだろ的になっている気がするし、少数の個人をアイドル的が扱われている傾向があってあまり良くないと思っていたのだけれど、本書はこれまで知らなかった人たちばかりが自分の視点から新たな見解を提示していて、新鮮味があった。
なかでもすごいと思ったのは、女性と高齢者に多いとされる尿失禁について書かれた文章。書いたのはディスアビリティ・ジャスティスの活動家として積極的に障害について発言してきた女性だが、それでも尿失禁を起こしていることについては周囲に相談できず、大人用おむつの着用が必要になったのにそれを避け続け自宅にこもるようになった自分に気づく。障害と年齢についての内面化された偏見を自覚し、そこからおむつ着用を公言するようになる話は、今のところその必要性に迫られていないけれども別の側面で似たような経験のあるわたしにとっても勇気づけられる話。