Dick Lehr著「White Hot Hate: A True Story of Domestic Terrorism in America’s Heartland」
2016年、イスラム国(ISIL)賛同者による米国内での小規模なテロリズムや大統領選挙に出馬したドナルド・トランプの差別主義的な扇動の影響を受け、カンザス州の街に身を寄せたソマリア系難民や移民たちの小さなコミュニティに対する爆破テロを計画した白人ナショナリストたちと、その計画を阻止した人たちについての本。
ミリシアによる爆破テロの阻止に最も貢献したダン・デイ氏は、政治的には保守派でとくに銃を所持する権利に熱心で、敬虔なキリスト教徒。近くにある精肉工場で仕事をするために地域にソマリア人などムスリム移民が増えるなか、図書館でパレスチナ支持を訴えるビラを見かけたデイ氏は、そのビラの写真を撮ったうえで破り捨てた。イスラエル支持派のかれにとっては、パレスチナ支持のビラは不快だったのだ。ところがその写真を知り合いに拡散したところ、地域の右翼のあいだで「イスラム国やハマスがカンザスに勢力を広げている」証拠とされてしまう(イスラム国とハマスはそもそも敵対関係にあるんだけど)。その結果、アフリカ系の食品店やソマリア人が多く住んでいる公共住宅やモスクが「テロの準備をしている、少なくともテロ組織を支援している」とみなされ、それらの写真がネットに晒されるとともに、ミリシアがそれらの施設のパトロールや監視をはじめてしまう。
テロ組織がカンザスの地方の街に拠点を築いている、というネットを噂を耳にしたFBIは、その大本の情報源とされるデイ氏を訪れて事情聴取をするけれども、デイ氏自身、自分が撮った写真が原因でこれほどの騒ぎが起きていることに困惑していた。テロリストの存在を明らかにした功労者としてミリシアに加入するよう誘われていたデイ氏は参加するつもりはなかったけれど、FBIから「参加して情報を集めてほしい」と要請され、愛国心から同意する。ところがトランプの選挙運動に呼応するようにミリシアはFBIやデイ氏が想定していたよりはるかに暴力的な考えを膨らませ、大統領選挙の翌日に数百人のソマリア人が住む住宅とモスクを爆破するために起爆装置を作り、爆薬の製造の準備を進める。録音機をポケットに忍ばせているときに突然病気で気を失ったり、自分のミスで何度かピンチに陥りつつ、デイ氏はFBIと協力して、ついに爆破テロを阻止しミリシアのメンバーの摘発に成功する。
テロの計画とその阻止をめぐるストーリー自体、映画のようなスリリングな場面が散りばめられていておもしろいのだけれど、それと同時進行で描写される、自分たちの文化やコミュニティを守りつつ地元に溶け込もうとするソマリア人やその他のムスリムやアフリカ系移民たちや、かれらの定住を支援しようとする地元の白人たちの動きも興味深い。移民たちともともとの住民たちが交流できるお祭りを開いたり、地元の病院の医師がソマリア人コミュニティの長老の家に招かれて一緒に食事をしたりという取り組みがあったからこそ、テロ未遂が発覚したときに移民たちに情報をきちんと伝えて、ショックからの立ち直りを支援することができた。むしろ事件を通してムスリム移民たちと白人たちのあいだの繋がりは強化されたように見える。それでもデイ氏がFBIに協力していなければどうなっていたかと考えるとおそろしい。