Daniel A. Bell著「The Dean of Shandong: Confessions of a Minor Bureaucrat at a Chinese University」

The Dean of Shandong

Daniel A. Bell著「The Dean of Shandong: Confessions of a Minor Bureaucrat at a Chinese University

中国人でも中国系でもなく中国共産党の党員でもないのに中国の名門大学・山東大学で学部長に抜擢されたカナダ出身の政治学者がその経験と中国の文化や政治制度について書いたエッセイ集。

著者は大学時代に中国人女性と出会い結婚(のち離婚したけど)、中国語を学ぶとともに政治理論としての儒教に興味を抱き、キャリアの多くを香港や中国本土など中国語圏の大学で過ごしている。外国人であり中国系ですらない著者が大学で教員としてだけでなく学部長にまで出世するのは異例であり、就任した際には国際的に注目を集めた。いっぽう、かつては中国専門家として欧米のメディアに頻繁に寄稿していたが、いまでは中国共産党に飲み込まれたと判断されたのか多くのメディアから締め出されているようで、お前ら中国に言論の自由がないってよく批判しているけど欧米メディアは人のこと言えるのかよ、と吠えている。

まあ欧米メディアから突き放されただけあって主張はかなりエキセントリックで、しかもそれなりの根拠と論理をもって主張している。儒教についてはこれまで関心がなかったけれど少し学んでみようかなと思うくらいには興味を抱いたし、投票による民主主義がそんなに偉いのかとか、象徴君主制っていいんじゃね?とか、まあ議論としてはおもしろいものが多い。反腐敗政策が大学の現場に与えた影響や、中国版メリトクラシーのダイナミズムなどについても興味深い。

ただまあ、新疆ウイグル自治区における民族浄化や人権侵害について「テロ対策が一部ではちょっと行き過ぎちゃったみたい」的な扱いをするのは、エキセントリックでは済まされないような気がするんだけど…