Christopher Marquis著「The Profiteers: How Business Privatizes Profits and Socializes Costs」

The Profiteers

Christopher Marquis著「The Profiteers: How Business Privatizes Profits and Socializes Costs

人々や企業がそれぞれ自由に自らの利益を追求することがめぐりめぐって世の中の富を増やし全体の利益を拡大する、という資本主義の論理に対し、実際には企業がコストを社会に押し付け利益だけを掠め取っていることを指摘する本。著者はビジネススクールの人。

経済学的なキーワードで言えば負の外部性とかコモンズの悲劇とかいう話になるのだけれど、本書はおもに環境問題についての話を中心としており、ついで労働力の搾取や人種や性別による差別の話が続くのだけれど、「利益を私物化しコストを社会化する」というテーマでほかにわたしが簡単におもいつくような金融業界や医療保険業界の構造についての話はなく、また個別の企業がどのようにして企業の社会的責任を果たそうとしているか、あるいは活動家たちが株主となってどのように企業に社会的責任を果たさせようとしているかというケーススタディが大量に出てきて、構造的な変革には議論が及ばない。せいぜい高所得者から税金をちゃんと取れ、くらいの提案しかない。

企業がその活動から生み出す問題の解決を、リサイクリングや個人によるカーボン・オフセットの購入といった形で消費者に任せようとしている点や、「企業の社会的責任」がただの宣伝文句になってしまい実際には何も解決していない点などを指摘しているのは良いけれど、消費者が企業の宣伝に騙されずに社会的責任をきちんと果たしている企業から購入しよう、投資家もそうした企業に投資しよう、というのでは話にならない。経済学者はよくコストを内部化しろとかコモンズに所有権を設定しろみたいな提言をして、それは実際にはいろいろ難しくて結局無理だったり不十分だったりだよね、となるところまでがセットなんだけど、そこまですらたどり着いていない。コモンズを共同でうまく管理できた事例もある、という話が少しだけ出てくるけど、どういう条件ならそれが可能なのかは分析されず、ただお手本にしよう、というだけ。なんなのこれ、よく出版できたなあ。