Byrne Hobart & Tobias Huber著「Boom: Bubbles and the End of Stagnation」

Boom

Byrne Hobart & Tobias Huber著「Boom: Bubbles and the End of Stagnation

技術加速主義、あるいは効果的加速主義(e/acc)な本。ピーター・ティールとマーク・アンドリーセンが推薦のコメントを寄せているんで、まあそういう話。

バブルは評判が悪いけれども、イノベーションを起こすには必要だというのが本書の中心的な主張。みんながみんな冷静に判断して手堅く投資してたら爆発的なイノベーションは生まれない、多くの人たちが一斉にありえないような夢を抱いて非合理的に見える挑戦をしたからこそマンハッタン計画による核兵器の開発やアポロ計画による月への着陸を成し遂げることができたし、それらによって技術が進歩し人々は大きな利益を得ている、と。しかしいまの社会は規制やキャンセルカルチャー(や男性のテストステロン値低下)によってリスクを取ることがタブーとされ、技術の進歩は停滞していると著者。

もちろんバブルにも良いバブルと悪いバブルがあって、たとえば不動産の価格がどんどん上がっていった不動産バブルは「これまで不動産価格は上昇したからこれからも上昇していく」という現状維持を前提とした悪いバブルだったと言う。それに対して良いバブルは、グーグルやウーバー、ビットコインなどこれまでの社会のあり方を一変するという途方もない野望に対して期待が集まった結果として起きるものだ、と言うけれども、まあかつてのドットコムバブルや今のAIバブルと不動産バブルがどれだけ違うかって話だと思うんだけど。

本書がイノベーションの成功例として挙げるマンハッタン計画やアポロ計画は軍事的な要因に迫られて政府が巨額の予算を投入した結果で、そこから派生したコンピュータ産業やインターネットの発展についてもまあわかるけど、続いてフラッキング(水圧破砕法)やビットコインを破壊的イノベーションの成功例として挙げるのはあんまり納得できないフラッキングの環境への悪影響について「石油産業によれば悪影響はないとされている」ってなんで石油産業の見解だけ紹介するんだよと思うけど、それ以前の問題として著者が認めるとおりフラッキングは良くて「過渡的な技術」であって脱炭素エネルギーの流れに逆行してるし、投機によって価格が暴騰しているという事実以外にビットコインが成功だという根拠がなにも見つからない。

そもそも現代社会ではリスクを取ることがタブーとなっている、という話が怪しくて、わたしから見るとリスクだらけになっているように見えるんだけど、環境や人権への配慮によって自由が奪われている、という金持ち白人男性たちの考えにあれこれ理屈をつけているような感じ。唐突にテストステロン値の話がでてくるあたり、男性が「男性本来の」アグレッシヴさを発揮できる社会を求めているんだろうなあと。