Bianca Mabute-Louie著「Unassimilable: An Asian Diasporic Manifesto for the Twenty-First Century」

Unassimilable

Bianca Mabute-Louie著「Unassimilable: An Asian Diasporic Manifesto for the Twenty-First Century

ロサンゼルスの東側にありアメリカで最も東アジア系住民が密集しているサンガブリエル・バレーの中国系アメリカ人家庭に生まれ、中国系アメリカ人コミュニティや福音派キリスト教会の影響を受けて育った著者が、ブラック・ライヴズ・マター運動との出会いや自身のバイセクシュアリティと向き合った末に、アジア系アメリカ人ではなくアジア系ディアスポラ(祖先からの土地を離れ離散した人たち)として白人主流社会への同化を拒絶した生き方を呼びかける本。

著者は東アジア系住民が多いサンガブリエル・バレーに生まれたため人種や人種差別についてほとんど意識することなく育ち、エリート大学への進学を望む両親の期待のとおり白人主流社会にもうまく適応して成功の道を進む。しかし2010年代、白人警察官や自警団による黒人市民の相次ぐ殺害に対抗してブラック・ライヴズ・マター運動が広がると、福音派キリスト教会の影響を受け人種差別のことを信仰によって乗り越えるべき個人の間違った価値観だとする著者の考えは大きく揺さぶられる。また同時に、「同性愛者は生涯セックスを避けるべき」だとする教会のなかで自分がバイセクシュアルであることを自覚してもそれを周囲に打ち明けることができず、教会の教えに対しても疑問を感じ始める。人種差別とは個人の価値観や態度の問題ではなく社会的な権力構造や格差であることを理解した著者は、アジア人たちが「モデル・マイノリティ」として白人社会によって持ち上げられ、黒人を貶める口実とされていることを告発するようになっていく。

アジア系アメリカ人コミュニティはマイノリティとして人種差別に対抗しようとする考えとモデル・マイノリティとして白人の価値観を内面化し「準白人」として反黒人的な社会構造の恩恵にあずかろうとする戦略とのあいだで引き裂かれ、とくに黒人との連帯を意識しない限り後者の路線に流されてしまう。アメリカ社会に受け入れられるためには、かつて多くの日系人たちが日系人であることだけを理由に強制収容所に送り込まれたにも関わらず自分たちに対してそのような仕打ちをしたアメリカ政府の要請に応えて率先して軍に志願したように、自分たちが白人主流社会を脅かさない忠実なアメリカ人だと証明しなくてはいけない、という強迫観念は根強い。2020年にブラック・ライヴズ・マター運動が最大の盛り上がりを見せた際には、アメリカ生まれの若いアジア系アメリカ人たちが黒人差別に無頓着な親や祖父母の世代に対してアメリカの人種差別について説明しようとする取り組みが広がったが、かれらがアメリカの人種差別について無知であるというのは間違いであると著者は言う。いまより人種差別が激しかった時代にアメリカに移住した世代の人たちは、人種差別を知らないのではなく、むしろ激しい人種差別に晒されていたからこそ、白人主流社会の価値観を内面化し自分たちがモデル・マイノリティであることを証明しなければいけなかったのだと。

著者がアジア系アメリカ人ではなくアジア系ディアスポラのアイデンティティを追い求めるのは、アメリカ、すなわち白人主流社会への帰属よりも、世界各地のアジア系移民たち、そしてアフリカ系の人たちやその他のディアスポラの人たちへの連帯を優先する考えから。白人が人数的に多数派を占め白人の価値観が支配的なエリート大学やその他の白人中心主義的な空間において、モデル・マイノリティとしてアジア人たちが行儀よく参加することで白人による支配と黒人の排除を補強している事実を、現にそうした空間でそのような役割を担ってきた著者自身が告発し、それとは異なるあり方を呼びかける。白人社会に同化するのでも同胞による小さなコミュニティに閉じこもるのでもない、もう一つの未来をアメリカのアジア系住民たちに見せようとする刺激的な内容。