Anthony B. Pinn著「The Black Practice of Disbelief: An Introduction to the Principles, History, and Communities of Black Nonbelievers」
公民権運動をリードしたキング牧師に象徴されるように、黒人コミュニティや黒人運動について語るときには黒人キリスト教会の影響が重視されがちななか、神への信仰を持たない黒人ヒューマニストたちが黒人解放運動のなかで果たしてきた役割に注目し、現在のブラック・ライヴズ・マターにつながるそうした存在を正当に評価しようとする本。なんだけどあんまり短いのでちょっと物足りない。
ブラック・ライヴズ・マター運動は黒人教会を土台としないはじめての黒人解放運動だと言われることもあるが、実際には奴隷解放運動は信仰者だけによって行われたわけではないし、20世紀初頭には無神論的な黒人による共産主義や社会主義の運動も広がり、それはブラック・パンサー党の活動などに引き継がれている。信仰者を尊重しつつも、信仰コミュニティから排除される傾向のある黒人クィア女性たちがブラック・ライヴズ・マターをはじめたのは偶然ではなく、黒人解放運動のなかで受け継がれてきた黒人ヒューマニズムの伝統がある。
信仰を持たない黒人たちが正当な評価を得られない理由の一つは、黒人の非信仰者たちは信仰を持たない白人の無神論者や懐疑論者たちとは異なる傾向があることだ。ドーキンス、ハリス、ヒッチェンスら2000年代から2010年代に台頭した「新しい無神論者」たちは、無神論を理性と合理主義と結びつけ信仰者を見下し、とくにイスラム教徒に対する偏見や人権侵害を助長する行動を取っただけでなく、人種差別や性差別の指摘をことごとく否定してきたが(このあたりは現在の効果的利他主義のグループに引き継がれている)、黒人の非信仰者たちはあくまで信仰を持つ黒人たちとの繋がりのなかでヒューマニズムや共産主義・社会主義といった政治的傾向を追求してきた。短いながら、その歴史をきちんと記録し伝える、とても重要な本。