Amber Cantorna-Wylde著「Out of Focus: My Story of Sexuality, Shame, and Toxic Evangelicalism」

Out of Focus

Amber Cantorna-Wylde著「Out of Focus: My Story of Sexuality, Shame, and Toxic Evangelicalism

コロラドスプリングスに本拠を置く宗教右派団体フォーカス・オン・ザ・ファミリーの幹部を父に持ち、レズビアンとしてカミングアウトしたことで家族から追放された著者の自叙伝。

フォーカス・オン・ザ・ファミリーは全国的にも有名な右派団体で、同性愛や妊娠中絶に反対している。著者は幼いころから保守的なキリスト教の価値観を教え込まれ、「男性を性欲の誘惑から守るために女性は慎ましくしなければならない」という性差別的な純潔教育を受けて育ったが、年上の男の子に性的虐待を受けたことを母親に打ち明けたときは「男の子が性に興味があるのは仕方がない、なにかの間違いだと思って忘れろ」と言いくるめられる。年齢があがり周囲の女の子たちが男の子の話題で盛り上がるなか男の子になんの魅力も感じなかった著者は自分の信仰を誇りに思うも、大人になり宗教団体で働くようになったとき、同性の後輩とはじめてのキスをする。

自分が宗教的な間違いを犯してしまったことを自覚し牧師に相談すると、またたく間に話が広がり、家族から冷たい目を向けられることに。相手の女性も彼女と同様に罪の意識に苛まれ、こんなことをしてはいけないとお互い思うけれど、一緒にいると幸せでどうしてこれがそんなに間違っているのか分からない。その女性とは続かなかったもののまた別の女性と出会い自分がレズビアンであることを自覚した著者は、それを家族に伝えたが、「父親のキャリアに傷が付くとは思わなかったのか」と非難され、実家の鍵を取り上げられるなどして家族から追放される。

著者は一時的にコロラドスプリングスを離れて別の街で別の女性と結婚したものの、数年後に離婚してふたたび生まれ育ったコロラドスプリングスに戻ってくると、昔はその存在すら知らなかった地元のクィアたちに出会い、コミュニティを築く。そうした2021年の11月、コロラドスプリングスで唯一のゲイバーClub Qで銃乱射事件が発生、5人が亡くなり25人が重軽傷を受けた。犯人は日頃からLGBTコミュニティに対するヘイト発言を繰り返していた22歳の男性。フォーカス・オン・ザ・ファミリーをはじめ複数の有名なキリスト教右派団体が本拠地を置くコロラドスプリングスで、著者ら地元のクィアたちやその支援者たちは、銃乱射事件と日頃からこれらの団体が拡散しているヘイトの関連を指摘し、抗議活動を繰り広げる。

コロラドスプリングスはデンヴァーに次ぐコロラド州第二の都市で、デンヴァーとは全く違う保守的な空気が漂う街。ちなみにわたし、むかしコロラドスプリングスにある某大学に呼ばれて講演をしたことがあるのだけれど、女性学の学部長が自分の受け持つクラスでトランス男性生徒が望む名前や代名詞を使うことを拒否していて、女性学部とクィア学生団体が全面対立してしまっていたのだけれど、なんだったんだあれは…