Amanda Tyler著「How to End Christian Nationalism」

How to End Christian Nationalism

Amanda Tyler著「How to End Christian Nationalism

信仰の自由を守るための団体の代表で、キリスト教ナショナリズムに反対するキリスト教徒の団体を設立した弁護士による本。キリスト教の教えを白人至上主義や移民や異教徒らの排斥に繋げるキリスト教ナショナリズムが本来のキリスト教を逸脱したものであることを指摘し、キリスト教の信仰者として、そして多様な信仰や無信仰の人たちが暮らすアメリカの一員として、正しい政治への関わりを模索する。

(白人)キリスト教ナショナリズムの脅威がそれによって排斥されたり権利を奪われる移民、異教徒、性的マイノリティらだけではなく、キリスト教会の中でも警戒されつつある。政教分離の原則がないがしろにされるだけでなく、神ではなくトランプやアメリカを崇拝する偶像崇拝や、移民やその他のマイノリティの排斥、銃への過剰な執着や暴力的な価値観など、キリスト教ナショナリズムはアメリカにおける伝統的なキリスト教の価値観とは相容れないからだ。著者らが気づいたときにはそうした神への冒涜に等しい新たなファシズムへの支持が教会のなかで広がり、著者らが大切にしてきた「信仰の自由」は他者の人権を否定するための武器になってしまった。

キリスト教ナショナリズムに危機感を感じたキリスト教徒による反撃としては、最近読んだばかりのCaleb E. Campbell著「Disarming Leviathan: Loving Your Christian Nationalist Neighbor」とも共通しているが、「Disarming」があくまでキリスト教の優位を肯定したまま教義の内容が捻じ曲げられていることを批判する一方、本書はアメリカが多様な信仰や無信仰を等しく守ることを信仰者として訴えている。また「Disarming」はアメリカ国家の建国者たちは正しかったという前提でキリスト教徒たちがそこに立ち返ることを訴える一方、本書は建国者たちのアイディアの良い部分を認めつつ、かれらが奴隷を所有し先住民の土地を奪う侵略者であったこと、そしてその二面性が現在に続くキリスト教本来の教えとキリスト教ナショナリズムの分裂の根底にあることも指摘している。

本書はキリスト教ナショナリズムをただ批判するだけの本ではなく、キリスト教の信仰者や指導者たちにキリスト教ナショナリズムへの抵抗を呼びかけ、そのための道具となろうとするもの。「Disarming」にはちょっと乗れなかったけど、本書の主張であれば一緒に行動できるし、すでにキリスト教ナショナリズムへの抵抗をはじめている教会なら行ってみたいと思えた。