Ali Vitali著「Electable: Why America Hasn’t Put a Woman in the White House…Yet」

Electable

Ali Vitali著「Electable: Why America Hasn’t Put a Woman in the White House…Yet

NBCテレビの記者として2020年大統領選挙の民主党予備選に立候補したエリザベス・ウォレン上院議員に随伴した著者が、彼女を含め大統領に立候補した女性たちが経験する困難や、今後女性の大統領が誕生する見通しについて語る本。

女性が大統領当選に最も近づいたのはヒラリー・クリントン元国務長官が得票数でトランプに三百万票の差をつけて勝ったにもかかわらず落選した2016年だけれど、その年を含め過去に大統領選挙に立候補した女性は2008年のクリントン(民主党予備選)、2016年のカーリー・フィオリーナ(共和党予備選)、2000年のエリザベス・ドール(共和党予備選)など多数の男性候補に一人だけ女性が混じっていた状況だった。ところが2020年の民主党予備選はウォレンに加えカマラ・ハリス(現副大統領)、エイミー・クローブシャー、カーステン・ギリブランドという4人の有力な上院議員に加え、タルシ・ギャバード下院議員や作家のマリアン・ウィリアムソンを加えた6人が同時に立候補した、歴史的な選挙だった。

2016年にクリントンが落選した際は、彼女個人が嫌われており女性であることは関係ないという意見も聞かれたが、一方メディアの扱いや対立候補であるトランプによる言動に性差別的なパターンがあったことも事実。6人の女性候補が立候補した2020年にも不公平な扱いは続き、また男性の大統領候補となら問題とされない攻撃的な態度や野望の表明が女性らしくないとして反感を受けたり、女性の権利を声高に主張すると男性有権者に反発を浴びるのにそれを避けると女性有権者から裏切り者扱いされるという状況にも晒された。ハリスがバイデンの過去の人種問題をめぐる立場を批判したときは彼女のほうがダメージを受けたし、サンダースがウォレンに対して「女性は大統領に当選できない」と言ったかどうか騒がれた際にはウォレンの側が嘘つきだと一方的に言われた。クローブシャーが経歴で他の候補に劣るブーティジェッジについて「もしかれが女性なら有力候補にはなれていない」と言ったときも、メディアでしつこくその発言について問い詰められた。上院で経験を積んで満を持して立候補した4人の女性たちに対し、ブーティジェッジやアンドリュー・ヤンのように大した経験のない男性候補たちがもてはやされたことも、男性は将来の可能性だけで評価されるのに女性は全てを完璧にこなさないとスタートラインにすら立てない、という現実を象徴している。

それでも、中道から左派までさまざまな立場に立つ女性たちが大挙して大統領の座を目指した2020年は、クリントンが史上初の女性大統領にあと一歩のところまでたどり着いた2016年とともに歴史的な年だったし、大統領にはなれなかったけれどもハリスが黒人&インド系の女性としてはじめて副大統領に当選したことも歴史的に重大な出来事だった。また本書は共和党側の女性政治家たちにも取材しており、近年共和党でも有望な女性候補の発掘・育成に力を入れていることが紹介されている。ニッキ・ヘイリー元サウスカロライナ州知事・国連大使やクリスティン・ノームサウスダコタ州知事らは次の大統領候補としても注目されている。クリントン自身もインタビューに答え、自分はそうでないことを願っているけれども最初の女性大統領は共和党の保守派かもしれない、と他国の例を挙げて発言しているように、誰か一人が「女性候補」として注目されるのではなく、たくさんの女性たちがさまざまな主張を唱えて立候補することが、近い将来初の女性の大統領を生むのかもしれない。