Alexander C. Karp & Nicholas W. Zamiska著「The Technological Republic: Hard Power, Soft Belief, and the Future of the West」

The Technological Republic

Alexander C. Karp & Nicholas W. Zamiska著「The Technological Republic: Hard Power, Soft Belief, and the Future of the West

警察や政府機関に向けたデータ分析テクノロジー業者Palantirをピーター・ティールとともに立ち上げCEOに就任したアレックス・カープとその副官が、シリコンバレーの個人主義の行き過ぎを批判し、安全保障を通した国家への貢献を主張する激ヤバな本。はじめは著者らの立場はテクノナショナリズムかと思ったけど、ナショナリズムどころかステーティズム(国家主義)だった。

著者らによれば、シリコンバレーには個人主義者が多すぎ、国の利益を守るための軍備や治安維持のためのテクノロジー開発に関わることがタブー視されている。おかげでいまの世代の才能ある若者たちはソーシャルメディアやフードデリバリーなどくだらないサービスをバズらせることに腐心しており、国家ぐるみで軍事技術や治安技術を開発・推進している中国やロシアなどに対してアメリカが不利になってしまっている。かつて核兵器をはじめとする軍事開発に本腰で取り組んだ科学者やエンジニアたちの気概を取り戻し、アメリカの国益を守るためにテクノロジーはもっと貢献すべきだ、という内容。

ピーター・ティールやイーロン・マスクはほかのペイパル・マフィアメンバーたちやその周辺のテクノロジー起業家たちとともに自由主義者・リバタリアンを自称するが、いっぽう政府からの資金援助や契約に依存し、また市民監視や世論誘導などによって国家権力の膨張を進めており、リバタリアンとの自己認識との乖離が激しい。カープらによるこの本は、かれらが現実にリバタリアンではなく国家主義者であり、技術の軍事利用や市民監視を進めると同時に、外国企業との競争から政府が保護してくれることを期待していることがはっきり書かれていて、恐ろしい内容なんだけれどある意味すっきりする。

アメリカの国益を守る、というところで、たとえばアメリカ人たちがより健康に生きられるようにとか、よりやりがいのある仕事をして余裕のある生活ができる程度の収入を得られるようにする、という考えがあるならまだしも、本書に書かれているのはほぼ軍事と治安だけ。著者らが訴えるのは愛国主義やナショナリズムですらなく、国家主義・権威主義でしかない。よくもまあこんなに偏った危機感を抱けるものだと思うけれど、国を存続の危機から守るためという口実があればパランティアの技術が行っているような侵害的な市民監視や個人データ収集が正当化されるとでも考えているのかもしれない。不快で仕方がない内容なのだけれど、自称リバタリアンで実質国家主義者・権威主義者たちの本音を明らかにしてくれたという意味では参考になった。