Alexa Tsoulis-Reay著「Finding Normal: Sex, Love, and Taboo in Our Hyperconnected World」

Finding Normal

Alexa Tsoulis-Reay著「Finding Normal: Sex, Love, and Taboo in Our Hyperconnected World

雑誌「ニューヨーク」誌で「What It’s Like」という特殊な経験をした激レアさんを取材したコラムを書いていた著者が、さまざまな少数派の性的指向や性的関係を生きている人たちを取材して、かれらがどのようにしてインターネットを通して仲間を見つけ、自分はアブノーマルではなかったのだ、自分と同じことを感じている人はこんなにいたんだ、と感じているか、というテーマで書いた本。社会のなかで孤立したごく少数派の人たちがインターネットを通してお互いと出会いコミュニティを築くという話はインターネット利用が一般化した頃からずっと言われてきたことで、一部ではヘイトグループや陰謀論者がエコーチャンバーを形成して過激化をもたらしている、という批判もさんざん言い尽くされてきた。そういうなかこの本が新しいのは、20年前なら普通に同性愛者とかトランスジェンダーの人、BDSMコミュニティなどが取り上げられていたところを、何に性的興奮を覚えるかというフェティッシュのレベルではなく特定の関係性を指向する(あるいは指向しない)「性的指向」のレベルで、新たに生まれてきたタブー化されたコミュニティに踏み込んでいるところ。

本は二部構成になっていて、第一部はアブノーマルとされてきた人たちが自分たちをノーマルと認識するようになったストーリーで、ポリアモリー、アセクシュアル、年の差カップルなどのコミュニティについての報告。第二部はアブノーマルからノーマルへの越境がより倫理的な問題をはらんでいる、(お互いに成人同士で合意が一応ある)近親相姦や(行為としての獣姦とは別に、性的指向としての)動物性愛のコミュニティを著者が取材することで、それぞれの問題についてあれこれ頭を悩ませる様子が率直に書かれている。これらのコミュニティが同性愛者運動の成功を後追いしようとすることは、同性愛者の権利に反対する人たちの「いったん同性愛者の権利を認めてしまえば近親相姦や獣姦を認めざるをえない状況になる」という主張を後押ししてしまうようであり、著者も取り扱いに悩んだ末、いくつかのコミュニティへの取材についてはこの本から除外したそう。知らなかったコミュニティについて新たに知ることができたけれど、一部については果たして理解するべきなのかどうか悩まさせられるところもあり、この本が間違った方向に使われなければいいと思う。