
Abby Phillip著「A Dream Deferred: Jesse Jackson and the Fight for Black Political Power」
1984年と1988年の二度大統領選挙に立候補した黒人公民権活動家ジェシー・ジャクソンの伝記。わたしが政治に興味を持った時にはすでにピークを過ぎていた人であり、バラック・オバマをやっかむ古い世代の公民権運動指導者、的な印象を持っていたのだけれど、いろいろ問題点はあれど偉大な人だと再確認するとともに、わたしがかれに対して抱いてきた印象の多くが白人メディアの影響を受けていたものだと反省。
本書は本当の父親を知らずに育った子ども時代からはじまり、ジャクソンがキング牧師が率いる公民権運動と出会いそこに参加、キング牧師の暗殺後にメディア対応のうまさでその後継者の座に居座り(いまでもかれのその時の行動を許していない人がいるらしい)、シカゴを拠点にキング牧師がやり残した人種を超えた貧困者による連帯運動の構築に尽力する一方、自身も政治的ブローカーとしてリチャード・デイリーの派閥、ハロルド・ワシントン、そしてバラック・オバマといった濃い連中とやり合う話などが語られる。黒人を顧客として抱えていながら黒人を雇うとしない企業にボイコットを呼びかけ譲歩を引き出すなどの手法は目覚ましい効果を上げたし、中東問題や日米貿易摩擦など国際問題にまで口を出すほどに。ちなみに日本の中曽根康弘首相の人種差別発言に猛抗議するとともに、アメリカに進出していた日本企業から黒人の採用の約束を勝ち取ったのもかれの功績。
二度の大統領選挙への立候補は当時としては早急とされたし、そもそも勝つつもりはなかったのではないか、黒人の政治参加を促すためのキャンペーンとして立候補したのではないかとも言われたけど、ジャクソンが掲げた国民皆保険や同性愛者の権利擁護その他の政策はかれの応援に駆けつけたバーニー・サンダースらに引き継がれ、いまでは民主党左派の基本的立場になっているものばかり。二度目の選挙ではミシガン州の民主党予備選で勝利したが、それはジャクソンがほかの誰よりも早く産業の海外流出が進む労働者層の不満を汲み取ることに成功したからだった。いっぽう、反ユダヤ主義的発言が批判されていたネーション・オブ・イスラムのルイス・ファラカン師を切り捨てることができず対応が遅れた点では、反米的発言が批判されたジェレマイア・ライト牧師との関係をうまく切り抜けたオバマとの違いが浮き彫りに。一言で言うと、ジャクソンは政治家になりきれなかった。
うん、ハイライトをまとめてみたけど、いい部分も悪い部分も含めてこんなおもしろくてすごい人だったんだ、と改めて思わせてくれる内容。エピソードがありすぎて書ききれないのでアメリカ政治に興味がある人は読んで。