A. C. Grayling著「Who Owns the Moon?: In Defence of Humanity’s Common Interests in Space」

Who Owns the Moon?

A. C. Grayling著「Who Owns the Moon?: In Defence of Humanity’s Common Interests in Space

月や火星など宇宙の天体の開発や資源採掘をめぐる競争が激化するまえに制定する必要がある法制度や国際条約について論じる本。

ベースとなるのは現存する宇宙条約やそのさらに前例となった南極条約だが、世界が多極化すると同時に国家ではなく民間企業主導による宇宙進出が進むなか、解釈が分かれ実効性にも疑問が浮かぶ。

で、南極条約や宇宙条約をめぐってどういう議論があり問題に対してどのような対応が取られたのかという歴史を参照するのは理にかなっているのだけど、知れば知るほど「こりゃどうしようもないな」という感想が深まる。結局のところ、超大国や大企業(に限らず最近では小規模なヴェンチャー企業ですら)好き勝手するし、それを止める仕組みは不十分。共有地の悲劇の問題に対してリソースの共同的なマネージメントを行うのは理想だけど、実際にそれをうまく回しているのは伝統的な地域社会のような小さな単位の中の話であって、天体がリソースとして見られている限りは解決は難しい。せめて宇宙戦争や一部の国や企業による独占支配といった最悪の事態にならないような枠組みだけはなんとか作って欲しいところなんだけど。