Dennis Baron著「You Can’t Always Say What You Want: The Paradox of Free Speech」

You Can't Always Say What You Want

Dennis Baron著「You Can’t Always Say What You Want: The Paradox of Free Speech

言論の自由へのさまざまな制限についての歴史を振り返り、現在それがどのような脅威にさらされているか論じる本。法律や判例の話が多いししっかりしているので著者は法学者かと思いきや、専門は言語学らしい。

言論の自由は銃所持の権利と並んでアメリカの憲法に保証された権利だけれど、その両方を絶対的に保証しているように見える憲法の条文とは裏腹に、実際には当時からさまざまな制約を受けてきた。詐欺や誹謗中傷など今でも禁止されているものだけでなく、猥褻表現のように禁止の基準が時代や地域によって大きく変わってきたものもあれば、反戦の主張や英語以外の言語の使用が処罰の対象となった時代もある。保守派の法律家たちにより近年、憲法の条文はそれが書かれた当時の意図に従って解釈されるべきだ、というオリジナリズムの影響力が強くなっているが、言論の自由にせよ銃所持の権利にせよ憲法の解釈は時代とともに常に変化してきたし、オリジナリズムを主張する判事の解釈も実際のところ当時の意図とは関係無かったりする。

現代社会における言論の自由への脅威として、シャーロッツヴィルで武装した白人至上主義者たちによってカウンタープロテスターが暴行を受けた事件(Nora Neus著「24 Hours in Charlottesville: An Oral History of the Stand Against White Supremacy」参照)などで明らかになった武装した右派の暴力、社会的強者の言論の自由(とくに白人キリスト教ナショナリストによる信仰の自由)を口実とした女性や非白人、移民、クィア&トランスに対する差別の正当化とそれによる強者以外の言論の自由の圧迫、そして監視テクノロジーの普及によるパノプティコン化がもたらす言論の隠避の三つが挙げられている。右派は左派による大学キャンパスやソーシャルメディアにおける「キャンセルカルチャー」を批判しているが、実際のところ発言の場は失われてはいないし、実際に教育現場から排除されているのは人種差別やジェンダーやセクシュアリティについての議論。