Jen Percy著「Girls Play Dead: Acts of Self-Preservation」

Girls Play Dead

Jen Percy著「Girls Play Dead: Acts of Self-Preservation

女性が日常的に体験する同意のない性的対象化やその延長にある性暴力を生き抜くために編み出してきたさまざまな生理的反応や心理的防御、暴力的な行為の被害を受けたにしてはありえないと言われてきた行動などのパターンを、自身の経験や多くのサバイバーへの取材、被害を受けた著名人のインタビューや文章などを参照しつつ生物学や心理学の研究などとともにまとめたエッセイ集。

本書が扱うのは、まるで危険を感じると反射的に「死んだふり」の状態になるオポッサム(南北アメリカ大陸に住む動物)のように動こうとしても体を動かせなくなったり、犯行中・犯行後に加害者に媚びへつらい相手の機嫌を取るような行動を取る、記憶や感情を押し殺しなかったふりをしたり、レイプされたという事実から逃れるために合意していたとあと付けで自分を納得させようとしたり、あるいは加害者に復讐して犯罪者として収監されるなど、性的対象化や性暴力の被害を受けた女性たちの行動はバラバラで、理屈に合わないように見える。しかしそこにはそれぞれの合理性があり、パターンがある

著者は性暴力の捜査のマニュアルとして全国の警察で採用されていた本を入手し、その内容を紹介している。そのマニュアルには、事件直後に通報された性暴力の告発は事実に基づく可能性が高く時間がたってからの通報は虚偽である可能性が高いとか、告発の信憑性を判断するためには被害者の証言に矛盾がないかどうか、記憶に空白があったり情緒が不安定だったりしないか、そして被害者が非合理的な行動を取っていないか注意を払うべきだ、というアドバイスとともに、「被害者が虚偽の告発を行う動機」としてよくあるサバイバーに対する偏見がこれでもかと書かれている。またマニュアルでは性暴力を通報する女性が境界性人格障害や演技性人格障害ではないか疑うよう指示しており、演技性人格障害の女性はファッションに興味のある美人が多いので良いドレスを着た魅力的な女性に注意すべきだ、などとも書かれている。このマニュアルの著者はのちにこの内容が間違っていたことを認めたが、全国の警察やメディアに与えてきた影響は大きい。

紹介されているサバイバーのさまざまな反応には、それな!と共感できるものもあれば自分とはぜんぜん違うと思うものもあるけれど、理解できないとは感じない。むしろめっちゃ分かる。自分は絶対そんな反応はしないと思う人も、著者自身そうだったように実際に起きてみたら思いもしなかった反応をしてしまう場合もあるし、そうでなくてもサバイバーの声に耳を傾けてこれだけ多様なサバイバルのパターンがあると理解してほしい。例によって内容が内容なのでサバイバーの方は注意して読んでください。ていうか性暴力関係の本を紹介するときには星1〜5つで「読んでいて死にたくなる度メーター」を付けようかと考えたけど、それも人によって違うよねたぶん(この本はわたしだと星4つくらい)。