Bettina Aptheker著「Communists in Closets: Queering the History 1930s–1990s」

Communists in Closets

Bettina Aptheker著「Communists in Closets: Queering the History 1930s–1990s

1930年代から1990年代まで60年間に渡って同性愛を禁止していたアメリカ共産党の内外で共産主義を信じて活動してきたクィアたちについての本。

バーニー・サンダースら社会民主主義者が市民権を得ている現在でもアメリカではタブーとされている共産党だが、20世紀初頭には労働運動の高まりとともにかなりの党員を集め、フランクリン・ルーズヴェルト大統領のニューディール政策に対しては一部「物足りない」と批判しつつも支持するなど、それなりに力を持っていた。第二次世界大戦では共産主義国家のソ連がアメリカと同じ側になったが、冷戦の開始とマッカーシーらによる「赤狩り」によって共産党は打撃を受け、またその後ソ連による国内や東欧圏での弾圧が知られるようになると擁護派と批判派に分裂するなどして力を失ったが、その歴史のなかには常にゲイ男性やレズビアンらが存在した。

しかし共産党は、同性愛を資本主義によって生み出された退廃の象徴だとして否定、さらには「同性愛者は秘密をバラすと脅迫を受ける恐れがあるので信用ならない」という理由で党員資格を認めないことにしたが、これは同時期にアメリカ政府が同性愛者が公職に就くのを禁止したのと全く同じ理屈だった。それでも多くのゲイ男性やレズビアンたちは、ある人は私生活を徹底して隠し通し、またある人は私生活は隠さないまでも同性愛を公言するのを避けることによって党に所属し続けた。

ゲイ&レズビアンの権利を訴える運動が1960年代から1970年代にかけて広まり、1980年代にはAIDS/HIV危機をきっかけに大きな注目を集めるようになったなか、人種差別や性差別については進歩的な主張をしていた共産党が同性愛者の権利の問題において一般社会より遅れてしまったのは、その硬直した権威主義的な党内体制が理由。同じ指導者が長年に渡って権力を握っていた共産党内では、党の方針が間違っていたと指摘することはすなわち指導者に対する直接の批判となってしまい、なかなか口にすることができないばかりか、口にしたところでそれに柔軟に対応する体制がなかった。そういう体制だから多くのゲイやレズビアンの活動家たちは次第に共産党から離脱していき、その多くは共産党に批判的な新左翼グループに参加することになった。

また、1990年代になってようやく同性愛を禁止する規則を廃止したあと、自分たちが同性愛者迫害に加担していたことを何ら反省しないばかりか、過去に共産党で活動し同性愛を理由に迫害・除名された元共産党のゲイ男性指導者を「共産党には昔から同性愛者の指導者がいた」と持ち上げる宣伝をするなどしていて、こいつらマジあかんわ…と思った。てか当時のアメリカ共産党、ソ連のゴルバチョフ書記長(当時)が勧めていたペレストロイカを批判した結果、ソ連共産党からの助成金を打ち切られ、崩壊寸前だったわけだし、そういうところだよ。

本書のテーマである共産党そのものはこのようにグダグダエピソードが多いのだけれど、著者の周囲にいた、そして本書のためのインタビューにも応じてくれた共産主義者・社会主義者のレズビアン活動家たちの話の部分は充実。フェミニズム史の文脈でよく知っている名前が次々出てきて、たしかに彼女たちが社会主義者であったことは知っていたけれども共産党やその他の左派運動でどういう活動をしていたかはあまり知らなかったので、とてもおもしろかった。