
Lee C. Bollinger著「University: A Reckoning」
2023年まで長年コロンビア大学の学長を務めていた法学者が、連邦政府からの理不尽な攻撃にさらされるアメリカの大学制度の意義とそれに結びついた言論の自由の価値についてあらためて訴える短い本。憲法修正1条(言論の自由、信仰の自由)についての専門家である著者は、ミシガン大学学長だった当時にアファーマティブアクションの合憲性を訴えて争ったGrutter v. Bollinger裁判の被告でもあり、共著「A Legacy of Discrimination: The Essential Constitutionality of Affirmative Action」ではそのアファーマティブアクションについて論じていた。
科学技術の研究などによる産業発展の実利にとどまらず、大学がどれだけ社会のためになってきたか、という著者の訴えはまったくそのとおりだと思う。けれどもコロンビア大学が実質的にトランプ政権に屈服させられるという今の状況に陥ってしまったのは、トランプ政権にはじまった話ではなく、著者が学長をやめた直後に起きた、パレスチナへの連帯を訴える学生たちに対する弾圧から繋がっているもの。著者はガザ侵攻の数ヶ月前に既に学長の地位を退いていたとはいえ、言論の自由の専門家であるはずの著者が学生たちの言論の自由を守る学内のカルチャーを残すことができず、後任の学長に警察を学生たちに差し向ける決断を下させたあげく、議会で反ユダヤ主義からユダヤ系学生たちを十分に守ろうとしていないと槍玉にあげられ辞任に追い込まれる状況を引き継いでしまったことは事実。本書は言論の自由についての一般論ばかりで、著者がこの経緯をどう感じたのか、著者の個人的な思いが見えてこない。主張の内容に異論はないのだけれど、それが少し残念。まあもし「うまいタイミングで辞めることができて良かった、ラッキー」とか率直な発言してたらそれはそれで幻滅するけど。