Erwin Chemerinsky著「Presumed Guilty: How the Supreme Court Empowered the Police and Subverted Civil Rights」

Presumed Guilty

Erwin Chemerinsky著「Presumed Guilty: How the Supreme Court Empowered the Police and Subverted Civil Rights

歴代の最高裁がその判決を通してどのように米国憲法修正4・5・6条に定められた市民が公正な刑事司法裁判を受ける権利を損なってきたか示す本。憲法修正4・5・6条ではそれぞれ、不当な取り調べや証拠押収の禁止、黙秘権や公正な裁判を受ける権利、弁護士をつける権利などが定められているけれど、それらの権利を実質的に保証するためには、権利の侵害に対してなんらかの措置を取ることができなくてはいけない。具体的には、違法な取り調べによって得られた証拠や証言は裁判で採用できないようにするとか、違法行為を行った警察官や検察官が責任を問われるような制度を作らなければ、権利の侵害に歯止めがかからない。

ところが権力による憲法違反や違法行為を抑止するはずの最高裁は、「市民の権利と犯罪捜査のバランスを取らなければいけない」という論理で、違法な手段で得られた証拠を裁判で合法的に採用できるようにしたり、警察官や検察官による違法行為に対する責任追及がほとんどの場合において不可能になるような判決を下してきた。去年ジョージ・フロイド氏がミネアポリス警察によって殺された「長時間に及ぶ首への圧迫」や、ブリオナ・テイラー氏がルイビル警察に殺されるきっかけとなった「警察であることを告げない家屋への突入」など問題のある警察による行為の数々も、過去に何度も問題とされながら、(合法かどうかはともかく)責任を問うことはできない、という最高裁の判例によって、各地で温存されてきた。フロイド氏のケースでは珍しくかれを殺害した警察官が有罪になったけれど、ごく例外的な話。民事でもミネアポリス市はフロイド氏の遺族による民事裁判で和解して賠償金を支払ったけど、過去の判例に基づけば、裁判を続けていれば市が勝利していたはず。

アメリカ史上、最高裁が警察や検察の違法行為に歯止めをかけようとしたのはアール・ウォレン判事が最高裁長官を務めリベラル派が多数を占めた7年間だけで、ミランダなどいくつか画期的な判決が出たものの、続くバーガー、レーンクエスト、そして現在のロバーツ法廷と保守派がリベラル派を圧倒している。ウォレン判事の引退後に最高裁判事になった18人のうちなんと14人が共和党大統領が指名した判事。同じ時期に大統領選挙で共和党候補が民主党候補より多くの票を得たのは13回のうち5回に過ぎないのに。

去年起きたフロイド氏らの殺害に対する大規模な抗議運動のなかで警察や検察に対する批判や改革要求は高まったけど、警察や検察による人種差別的な違法行為の蔓延に最高裁が加担した事実はあまり知られていない。しかし最高裁を変えようにも終身任命の判事はどうしようもないので、当面最高裁に頼ることはできない。一部の州や地域でしか実現できないけれども、州の憲法を通して一般市民の権利が守られるように決めるか、州法や市条例などによって警察や検察の行為に歯止めをかけるしかない。そのためにもまず、憲法上の権利保証が不十分であることを広く知ってもらわないと。