Martin Reeves & Bob Goodson著「Like: The Button That Changed the World」

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Martin Reeves & Bob Goodson著「Like: The Button That Changed the World

2025年にもなって今更な感じがするけれど、「いいね」ボタンの発明と普及についての本。

「いいね」ボタンと言えばフェイスブックが採用したことがきっかけに一気に広まったけれど、ザッカーバーグはもともと「いいね」ボタンに否定的で、ほかのソーシャルメディアやユーザー生成コンテンツのサイトで採用されていた「いいね」ボタンをフェイスブックに取り入れることを何年ものあいだ阻んでいた。別のページに移動することなく、特別な手順を踏ませることなく簡単に賛同や称賛を表現できる「いいね」ボタンは、簡単だからこそフェイスブックが人々に使ってほしかったコメントやシェアと競合し、ユーザのエンゲージメントを減らすと思われていたのがその理由。しかし採用してみるとユーザに的確な広告を表示するための分析材料になることや、フェイスブック以外のサイトにサービスとして「いいね」ボタンを提供することでフェイスブック外でのユーザの行動を追跡することができることが分かると、積極的に推進するようになる。

本書はフェイスブック以前の「いいね」ボタンの前史やそのさまざまなバリエーションから、親指を上に掲げるサムズアップのサインの文化史、イノベーションがどう起こるのかという分析や、「いいね」ボタンの普及による社会的弊害などを取り上げているが、最後の話題については「弊害はあるけど良い点もあるし規制はできるだけ少ないほうがいい」という結論ありきで少し弱い。本書が指摘する弊害は、インスタグラムで注目されたティーンエイジャーたちへの精神的負荷、社会的・政治的分断の強化、プライバシー侵害の3つ。しかし本書ではそれらが「いいね」ボタンそのものの性質であるかのように論じられ、「いいね」ボタンによって収集されたデータが広告を売るためにエンゲージメントを最大化するよう設計されたアルゴリズムによってどのように利用されているのかといった観点が足りないように思う。一部のサイトが批判を受けて「いいね」の数をあえて表示しないようにしたことを指摘するなど、問題は「いいね」ボタンそのものではなくそれがどのような設計に使われているか著者は理解しているはずなのに、もう少し突っ込んだ話はできなかったのかと思うけれど、それを言い出すと規制必要論に繋がってしまうからわざと避けたような気もする。