Vauhini Vara著「Searches: Selfhood in the Digital Age」
テクノロジー・ジャーナリストの著者が、検索エンジンからオンラインストア、ソーシャルメディア、そしてAIチャットボットまで新たに登場してきたテクノロジーを自身がどう受け止め使ってきたか、その履歴を明かしてコメントしつつ、それらに自分がどう影響を受けてきたか語る本。
著者が注目を集めたのは、オンライン誌Believerに2021年に掲載された「Ghosts(ゴースト)」というエッセイ。ライターなのに以前からうまく言葉にできないでいた、高校時代に病気で亡くなった一つ上の姉のことをGPT-3(ChatGPTが発表される一つ前のバージョン)に9つの異なるパターンのエッセイとして書いてもらった経験とそのエッセイの実物を並べた記事で、AIには人間的な感情の機敏の表現は難しいのではないかという予想に反して、本人が実際に経験した以上の感受性に満ちた文章が生み出された一方、実際にはなかった感動的な逸話が勝手に捏造されるという発見は、生成的AIが一般的でなかった当時としては衝撃だった。
この手法に味をしめたのか、著者は自らのGoogle検索履歴やアマゾンの購入履歴などをそのまま掲載し、それを通して当時の自分を語ったり、章を書き上げるごとにChatGPTに感想や改善点を教えてもらってそのチャットログを賞の合間に挟むなど、まあ最近ありがちなんだけどやり過ぎるとそれもアリかなと思えてくる。章が進むごとに、つまりテクノロジーが社会や人々の自我に与える影響が増えるとともにその影の側面が本文で強調されるようになるが、ChatGPTがテクノロジーやAIの良い側面にも触れてバランスを取るように言ったり、その良い側面としてやたらとOpenAIやサム・アルトマンを取り上げることを勧めてくるあたり、ディストピア感もある。画期的なのか問題作なのか分からないし、履歴がだらだら出てくる部分は「わたしいまなにを読んでるの?」と思ったけど、いろいろヤバい本。