Thomas R. Cech著「The Catalyst: RNA and the Quest to Unlock Life’s Deepest Secrets」
RNAの研究に関連して1989年にノーベル化学賞を受賞した分子生物学者トーマス・チェックが、自身の研究人生を振り返りつつ、コロナウイルス用のワクチンに採用されて一躍一般社会にも認知されるようになったRNAの魅力を余すことなく布教するファンブック。
DNAはたしかに重要だけど、役割も形も一つだけだし、結局データを保持してるだけでしょ?それに比べてRNAは触媒の働きを果たしたり(リボザイム)役割もいろいろあるし形もさまざまで、ノーベル化学賞受賞の理由となった研究対象の自己スプライシングなんて大技も使えるし、生命の誕生にも関わっている(RNAワールド仮説)かもしれないくらいすごいんだよ!コロナウイルスから何百万人、何千万人の命を救ったと考えられるmRNAワクチンは画期的だし、癌治療やアンチエイジングにも使えそうなテロメラーゼにもRNAは関係してるし、CRISPRを使ったゲノム編集にもRNA研究が関わってるみたいに実用的な価値もすごいよ!と、まあ本の内容をまとめるとこんな感じ。もちろん実際にはもっとちゃんと説明してるけど、著者のRNA推しっぷりが徹底していて気持ちいいくらい。
この本、ときどき身近な例に置き換えた例え話がでてきて、その部分だけやたら易しいんだけど、それ以外の部分はさすがに科学的な知識が乏しいわたしにとっては難しくて、がんばって読んだけど正直、良くて9割、もしかしたら8割くらいしか理解していないと思う。まあ読む前に比べたらかなり知識が増えたと思う。現実に役に立ちそうな知識として、2020年にコロナウイルス・パンデミックが起きてあっという間にまったく新しいタイプのワクチンが完成したので怪しむ人がいたけど、実際には何十年もかけてさまざまな発見が積み重なってきて、パンデミックをきっかけにそうした過去の蓄積が総動員されたおかげで最速でワクチンが完成したんだよ、という話を丁寧に説明している部分は良いと思った。