Taylor Brorby著「Boys and Oil: Growing Up Gay in a Fractured Land」

Boys and Oil

Taylor Brorby著「Boys and Oil: Growing Up Gay in a Fractured Land

炭鉱や油田に依存したノースダコタ州の小さな町(って言ってもどれだけど田舎か日本の人には分からないかもだけど、アメリカで一番ど田舎なイメージのあるど田舎)で育ったゲイ男性のライターによる自叙伝的なエッセイ集。

子どものころから祖母にマニキュアを塗ってもらって大喜びするけど父親にこっぴどく叱られたり、競泳選手が履いているスピードの水着や学生レスリングのユニフォームを着ている男子に憧れつつ自分ではチームに入ったりする勇気が持てなかったりと微笑ましくもあり孤独な思い出から、高校生のころ工場に働きに出て指を負傷しそれまで打ち込んでいたサクソフォンを吹けなくなった話、ゲイの存在そのものがタブーとされている地域で仲間を見つけようとする苦労や、同性愛が親にばれて食卓の会話が途絶えた話など、印象的なエピソードがたくさん。

閉塞的なノースダコタを逃れようとしつつ度々そこに惹かれて戻ってきたり、自分に対する愛は感じるのに会話ができなくなってしまった父親との関係、ダコタ・アクセス・パイプラインの建設など環境破壊に反対しつつそれを必要としている地元の労働者たちの存在も切り捨てられないなど、ホームとアウェイのあいだで行ったり来たりする著者の物語は爽快なものではないけれど、テンションを押さえた著者の美しい文体は魅力。この閉塞感に共感できる人たちに読んでほしい。