Tamika D. Mallory著「I Lived to Tell the Story: A Memoir of Love, Legacy, and Resilience」
2017年、トランプの一期目の就任式の翌日に行われた「ウィメンズ・マーチ」共同代表の一人でブラック・ライヴズ・マター運動以前から反差別や人権擁護、銃暴力抑止の運動の中心に立ってきた黒人女性の自叙伝。
著者はハーレムに生まれ公民権運動に参加していた両親のもと社会運動に親しみながら育ったが、十代で妊娠・中絶を経験したり性暴力の被害を受けたほか、二度目の妊娠で産んだ子どもの父親はストリート・ギャングのメンバーで若くして殺害されるなど過酷な経験も。親が関わっていた公民権運動団体で仕事をはじめ努力と能力が認められ若くして団体の代表に上り詰めるとともに、ニューヨークの社会運動で大きな存在となっていく。
その彼女の名前が全国区になったのは、トランプの大統領就任に抗議する女性たちの大規模な行動、ウィメンズ・マーチの共同代表に就任したことがきっかけ。もともと白人女性たちが始めようとしていたこの抗議活動はいろいろな問題が指摘され、著者を含むさまざまなバックグラウンドを持つ女性たちがリーダーに就任したが、黒人運動において大きな影響力を持つネーション・オブ・イスラムの指導者ルイス・ファラカンとの関係から反ユダヤ主義者だといういわれのない批判を受け、また突然活動家として全国的に名前が知られさまざまな攻撃を受けることにもなり、次第に精神的に追い詰められていく。そのうち著者は鎮痛剤への依存症に陥り、仲間に支えられて治療を受けたものの貯金を使い果たし、また反ユダヤ主義者として悪名を広められてしまったために講演やコンサルティングの依頼も失い、ついに生活のために知り合いに資金援助を求めるほど困窮。
本書はそうしたどん底から著者が立ち直り、アンジェラ・デイヴィスらとともに黒人やその他の非白人を中心とした新たな運動団体を立ち上げてから現在までの彼女自身の行動を、全てをさらけ出して語る内容。彼女の活動で特筆すべきことは、ストリートの現場出身ながらそこからかけ離れた環境である公民権運動団体に加わりそのプロフェッショナルな活動内容に戸惑いながら適応しつつも、常にコミュニティとの繋がりを忘れないこと。たとえば2020年にブリオナ・テイラーさんがルイビル警察によって射殺された際、実際にルイビルに引っ越してはじめは余所者の彼女に懐疑的だった地元のコミュニティと対話を続け協力するなど、他所からやってきて記者会見だけやって出ていく著名な公民権運動指導者たちとは一線を画しているし、ルイス・ファラカンを切ることができずに批判を受けてしまったのも彼女が黒人公民権運動における黒人教会やネーションの役割を理解し尊重していて、若い活動家と黒人教会の架け橋になろうとしているからでもある。このあたり、とても参考になるとおもった。