Skye C. Cleary著「How to Be Authentic: Simone De Beauvoir and the Quest for Fulfillment」

How to be Authentic

Skye C. Cleary著「How to Be Authentic: Simone De Beauvoir and the Quest for Fulfillment

最近の過激フェミニスト「シモン・デビューボ」ことシモーヌ・ド・ボーヴォワールの実存主義哲学を参照しながら「オーセンティックに生きるとはどういうことか」問う本。著者はバーナードカレッジで教える哲学者なのだけれど、その前に軍に入って訓練を受けてたり、ウォールストリートでトレーダーをやったりと哲学者には珍しいくらい社会経験が豊富すぎて、え、この人なんの人だっけ?と何度か思わされる。

ボーヴォワールといえば「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名な名言が書かれている『第二の性』(この言葉は第二巻まで出てこないけど)がよく知られていて、第二波フェミニズムに大きな影響を与えたことや、同じく実存哲学者のジャン=ポール・サルトルとお互いの性的自由を認めつつ生涯のパートナーとして過ごしたことなど、当たり前のことは知っているけれども、『第二の性』以外の著書についてはあまり良く知らないし、彼女が書いた小説は一度も読んだことがない。いちおーフェミニズム理論をべんきょーしているわたしがそれでいいのか、という問題はさておき、ボーヴォワールの実存主義に正面から向き合う本書は貴重。

哲学的な本を短い紹介でまとめることは無理が過ぎるので詳しくは述べないけれども、ボーヴォワールが語る「自由」や「オーセンティシティ」はただ単に自分のやりたいことをやりたいようにやる、という意味ではもちろんなくて(そもそもそんな「自分」ははじめから決まった欲求を持って存在するのではなく、行動によって作られていくものだし)、そこには他者を自分と同じように実存を抱える人間として認めることが前提にあり、自分とともに他者の自由を尊重し、また自分だけでなく他者の自由への不正な侵害を取り除く責任が求められる。いやまあそう言うと当たり前なんだけど、そこには『第二の性』に通ずる、ボーヴォワール自身の女性としての経験から得られた識見が根底にある。

ボーヴォワールの思想についての詳しい議論は本書(とボーヴォワールの著書)を読んでほしいのだけれど、この本では著者が自身の経験を例に挙げてそれらを解説している。のだけれど最初に書いたように著者の経験が多様すぎて、ときどき別の方面が気になってしまう。あと、ボーヴォワールの議論がヨーロッパのエリート白人女性の経験を元にしていて、非白人女性や貧困層の女性らに批判されている、というのも紹介するのだけど、紹介しつつ著者自身もエリート白人女性であることを自覚して言い訳がましくなったり、ボーヴォワールが特に発言していない問題について(たとえばトランスジェンダー「問題」)彼女ならこう言うだろう、と雑に想像している部分は余分だった気がする。