Shawn Levy著「In On the Joke: The Original Queens of Standup Comedy」
20世紀前半〜中盤のアメリカで数少ない女性コメディアンとしてスタンダップコメディの世界で活躍したレジェンドたちについての本。取り上げられているのは1920年代にレズビアンとしてカミングアウトした黒人女性のMams Mabley、テレビのトークショーに引っ張りだこになり自分の名前を冠したコメディドラマで主演したJean Carroll、田舎娘のキャラクターで人気を博しカントリーミュージック界にも影響を与えたMinnie Pearl、セックスについての過激なネタで警察沙汰にもなったSophie TuckerとBelle Barth、20世紀アメリカを代表するコメディアンの一人でおそらく全国的に高い知名度を誇った最初の女性コメディアンPhyllis Diller、男女コンビで天才的な即興コメディを得意としたElaine May、自虐ネタを得意とし自分の病気まで笑い飛ばしたTotie Fields、そして視聴率トップのレイトナイトトークショーでホストが休暇中の代役を務めのちに別の局で自身のトークショーを持ったJoan Rivers。わたしにとっては知らない名前がほとんどだったけど、楽しく読んだ。テレビ時代以降に活躍した人の映像はYouTubeで探してみたい。
男性の映画評論家でライターである著者が紹介するように、現代でも「女のコメディアンはおもしろくない、笑えない」という偏見がコメディ業界内ではびこり、MeToo運動が暴露したように有名男性コメディアンが同じ業界の立場が弱い女性たちにセクハラをする例も少なくない。フォーブス誌が毎年発表している「最も稼いでいるコメディアン」トップ10のリストに登場したことがある女性コメディアンは、いまだにAmy Schumerただ一人。そういうなか、上で名前を挙げた女性たちはそれなりに大成功しているのに、残念ながら彼女たちは常に「例外」として扱われ、女性コメディアンの地位向上や機会の平等化にはあまり繋がっていない。しかし「ステージに一人で上がって客を笑わせる女性」がすでにタブーであることを利用して、男性コメディアンよりも過激に性や政治のタブーに切り込んでいく女性コメディアンたちの存在はカッコいい。
これだけのレジェンドたちのストーリーを読んで気になるのは、女性コメディアンとして人の前に立つうえで「外見への評価」が避けられないということ。美人なら美人でそればかり騒がれるし、そうでなければブスだのデブだの言われる先に自虐ギャグにしていくほかない。で、笑い飛ばしてはいるのだけれど、上に名前を挙げた女性たちのうち何人かじゃコメディで稼いだお金で整形手術を受けている。そして、整形手術を受けた際に細菌感染したことをきっかけに片足を切除しなくてはいけなかったFieldsさんが術後の復活ライヴで「ついに体重を減らすことに成功した」と笑いにしたように、整形手術自体も自虐ギャグにしている。彼女たちの力強さを感じると同時に、女性であるためにコメディの方向性が決めつけられているような理不尽さも感じる。
あと印象的だったのは、クィアコミュニティとの関係。レズビアンであることを公言していたMableyさんだけでなく、公言はしなかったけれども女性のパートナーと暮らしていた人もいるし、本書で取り上げられている複数のコメディアンが最初に掴んだファンはゲイ男性たちだった。実際、ゲイコミュニティは彼女たちを熱狂的に受け入れるだけでなく、彼女たちのモノマネをするドラァグクィーンたちも登場。メインストリームのコメディ舞台から排除された女性コメディアンたちが、同じようにメインストリームから排除されたゲイやドラァグクィーンたちに歓迎された、というのはとてもおもしろかった。