Sarah Chihaya著「Bibliophobia: A Memoir」

Bibliophobia

Sarah Chihaya著「Bibliophobia: A Memoir

日系アメリカ人の文学研究者・批評家が本への異常なこだわりと恐怖心について綴った自叙伝。ビブリオフォビア(本恐怖症)といえば本を読むのが大嫌いな人と思うかもしれないけれど、著者は逆に本が大好きすぎて、人生において本から受けた影響が大きすぎて、本を読んだり書いたりすることに恐怖を感じるようになってしまったレアなパターン。

子どものころは楽しい物語が終わってしまうのでは、思っていたのと違うかたちに展開してしまうのではと恐れていた著者は、トニ・モリスンの著作などに出会い人生を変えさせられる経験をしてから、本が持つ可能性に恐れおののくことに。また当然のことながら文学研究者を志したのはいいものの、自分には人々の価値観を揺るがすような新たな解釈は提示できないのではないか、「それはあなたのただの感想ですよね」と言われてしまうのではないのか、あるいは自分の中に生み出すべき本があるのかどうか、もしあるとして、一冊出したらそれで尽きてしまうのではないのか、と苦しむ、ある意味贅沢なお悩み。しかしそうした自身のなさや自己評価の低さからメンタルヘルスをこじらせ、さらに文学にのめり込む。

著者は日系人女性だけに、日本人の女性たちにやたらと人気のカナダの小説「赤毛のアン」シリーズについての記述はおもしろい。あんまりこちらの文学関係の本で「アン」シリーズについて論じられるのをみないのだけれど、アメリカ政府による対日文化政策によって推進された事実や日本でのカルト的人気、高畑勲が監督を努めたアニメ版、あとシリーズのあんまり知られていない巻にはこんな話がある的な、日本でアン・シリーズ通の人が話し始めたら止まらないやつが続々。いまでもプリンスエドワード島には日本からアンのファンたちが大勢観光に来ているらしく、自分も行ってみようかと思いながら「いや、ないな」と思い返した著者が笑える。