Robbie Parker著「A Father’s Fight: Taking on Alex Jones and Reclaiming the Truth About Sandy Hook」

A Father's Fight

Robbie Parker著「A Father’s Fight: Taking on Alex Jones and Reclaiming the Truth About Sandy Hook

20人の子どもと6人の職員が射殺された2012年のサンディフック小学校乱射事件で娘を失った父親としてメディアに出演したことで、事件は銃規制を進めるためのフェイクだという陰謀論の標的となった著者の手記。

著者は新生児特定集中治療室(NICU)で働く医師で、妻と三人の娘がいたが、娘のうちの一人、エミリーが小学校を舞台にした史上最悪の乱射事件によって理不尽に奪われる。ショックを受ける一家のもとにはメディアが殺到し、なんとか犠牲者や遺族についての情報を得られないかと親戚やソーシャルメディアで繋がっている知人らにまで取材が殺到する始末。このままでは自分たちの意に沿わない話や事実と異なる噂話が独り歩きしかねないと危惧した著者は、地元メディアの取材を受けることで自身や娘についての報道をコントロールしようとする。

しかし事件によって銃規制への支持が広まりつつあったことに危機感を覚えた極右インフルエンサーたちの一部は、サンディフック小学校での乱射事件の報道自体が銃規制を進めるために実行された「偽旗作戦」であり、実際には事件は起きておらずメディアで証言している人たちは政府に雇われたクライシス・アクター(役者)だと主張した。その代表的だったのは極右陰謀論メディア・インフォウォーズを運営するアレックス・ジョーンズであり、かれは繰り返し著者を名指しで政府に雇われた嘘つき役者であると非難し、罵詈雑言を繰り返した。著者のもとにはジョーンズの話を真に受けた多数の視聴者から嫌がらせや脅迫が舞い込み、自宅の住所や電話番号、家族の名前や写真などが次々とネット上で暴露された。著者自身の写真も繰り返し拡散されたため、街を歩いているだけでジョーンズのファンに発見され罵られたりあとをつけられたりもした。

結局、家族の安全を守るために著者一家はそれまで住んでいたコネティカット州から昔大学に通うために住んでいたオレゴン州に引っ越す。そこで新しい仕事をはじめ、新しい教会に通うも、サンディフック小学校に通っていた娘がいたことが知られると、別に著者は銃規制の話なんてしていないのに、「このあたりには銃規制に反対する人が多いから注意しろ」と警告されたり、酷いケースだと「え、そんなことありえないでしょ、サンディフックの事件はフェイクだったと証明されたと聞いたんだけど?」と驚かれたり。そしてすぐに新居の住所や写真もネットで暴露され、クライシス・アクターとして受け取った報酬で家を買ったと決めつけられる。実際には陰謀論の拡散により動画広告の収益やサプリメントの販売などで多額の利益をあげているのはジョーンズだけ。

著者と同じ立場にあった遺族のなかにはアレックス・ジョーンズを訴えようとする動きがあり、著者も原告となるよう誘われたが、最初は著者は断っていた。それはこれ以上事件について騒がれたくない、という思いからだったが、また別の小学校で銃乱射事件が起き、その犠牲者の遺族もまたジョーンズらによって攻撃されていることを知るとともに、裁判になれば原告・被告双方から証人として証言を求められることも分かる。また娘の死と陰謀論者による攻撃に晒されたことをきっかけに子どものころのトラウマとも向き合い心の整理をつけた結果、どうせ裁判で証言しなければいけないのであればと原告に加わることになる。裁判ではジョーンズの弁護士は「あなたの娘を殺したのは犯人でありジョーンズではない、ジョーンズの発言が不愉快だというなら視聴しなければいいだけだ」と言ってのけたが、著者はそうした質問に怒りながら堂々と対処する。

判決は原告勝訴。ジョーンズは巨額の賠償金支払いを命じられたが、ジョーンズはインフォウォーズを倒産させたり資産売却の命令を無視したりしてなんとかして支払いを逃れようとしているのが現在。もともと著者やその他の原告たちもジョーンズが素直に賠償金を支払うとは思っていなかったが、こうした判決自体が将来ジョーンズと同じような方法で利益をあげようとする人たちを躊躇させることを願っている。

あれだけ多くの人たちが関与し広く報道された事件がまるっきりのフェイクだという陰謀論自体ひどいけど、理不尽な暴力によって突然子どもを奪われた親を攻撃するのはそれどころじゃないくらい本当ひどすぎて、ジョーンズには一生かけて賠償金支払わせろとしか。とはいえ最初のメディアによる取材攻勢も十分おそろしくて、家族を失った遺族に対する取材のやり方もどうにかしてほしい。