Rachel Hope Cleves著「Lustful Appetites: An Intimate History of Good Food and Wicked Sex」
18世紀にフランスで登場した高級レストランが、食欲だけでなく性欲を満たすための秘密のスペースとしてイギリスやアメリカに広がっていった歴史を掘り起こす本。
フランスに登場したレストランは、特権階級の男性たちが女性を連れて個室で食事できる場として広まっていった。多くの場合その女性たちは不倫相手や性労働者であり、個室の内側から鍵がかかる仕組みになっているなど顧客のプライバシーが重視され、なかで性暴力が起きても介入されなかった。いっぽう性労働者たちはレストランと秘密の約束をしていて、本来のメニューより高い値段が書かれたメニューを出させては男にねだって高額の食事やお酒を注文させて、翌日レストランからキックバックを受け取ったりも。こうした行為が横行したことで性労働者と誤認されることを恐れるその他の女性たちにとってはレストランはさらに敷居が高くなり、結婚した夫婦が一緒に食事をすることもできなくなる。またそうした悪い評判を嫌う男性たちに向けて、女性の入店を禁止するレストランも登場するが、するとさらにそうしたレストランのふりをして女性従業員を雇い性的サービスを行わせるレストランも登場するなどして、もうアホかと。男の性欲、歴史を動かしすぎ。
フランスではシェフは男らしい職業とされていたものの、フランス文化自体に女々しいイメージを持たれていたこともありアメリカでは女性的なイメージがつき、20世紀初めころから多くのゲイ男性たちがシェフやレストラン批評家として影響力を持つようになる。かれらは表向きはゲイであるとは公開しなかったが、いっぽう仲間のゲイ男性を多数集めた私的なパーティを開くなどしてレストラン業界内でネットワークを広げていった。おもしろ面倒くさい。
高級レストランは素晴らしい料理を提供しつつ、あまり大っぴらにできない罪深い女性の性的消費を行う場として広まっていったが、性革命を経たいまその関係は逆転し、同意さえあれば望みのままのセックスの追求の罪悪感が薄れた一方、健康上の懸念やダイエットへの強迫観念、さらには肉食に対する倫理的な問題まで、食欲の充足のほうが道徳的判断や罪悪感を生み出すもととなっていると著者。いやそこまでかな?とは思うけど、おもしろい視点ではある。あと、昔話題となったノーパンしゃぶしゃぶをはじめ扇情的な店員の制服や性的アピールを含むコンセプトカフェ的な店舗などレストランに性的要素を持ち込むのは別に新しいことではなく、そもそもレストランとはそういう施設だったというのは目からウロコだった。