Philip V. McHarris著「Beyond Policing」
若い黒人たちがフェミニズムやクィアライツを踏まえた運動を展開するために設立されたBYP100に参加し、ファーガソンやバルティモアなどにおける警察による黒人市民の殺害に対する抗議活動に関わってきた活動家・研究者が警察廃止を訴える本。監獄廃止や警察廃止の主張は非現実的だと思われがちだが、同じように当時は絵空事だと思われていた奴隷解放や人種平等の法律を実現してきたラディカルな黒人たちの夢を引き継ぎ、その論理と必要性を説く。
警察が逃亡奴隷パトロールや労働運動の弾圧のために生まれてきた経緯や警察による人権侵害を解決するために導入されたさまざまな改革が警察の権限と影響力をさらに拡張することにしかならなかった歴史など基本的な事実をおさえ、警察に頼らずに社会のさまざまな問題を解決するにはどうするか、警察が必要ではない社会はどういう社会でそこに行き着くためにはなにが必要か、という議論は、著者独自のものではなく反警察・反刑罰の議論においてはみなれたもので、警察へのオルタナティヴとして出てくる各地の取り組みもわたしにとっては既に知っていたものがほとんど。現に本書はCara Page & Erica Woodland編著「Healing Justice Lineages: Dreaming at the Crossroads of Liberation, Collective Care, and Safety」や「No More Police: A Case for Abolition」の著者Mariame Kabaさんらの主張を多く引用しており、中でもKabaさんのこれまでの多岐にわたる活動をまとめた部分は(わたしの友人でもある)彼女の生涯にわたる貢献をちゃんと評価していて嬉しい。
これまでの議論を既に知っている人にとってはあまり新しく学ぶことはないと思うけど、さまざまな疑問に答えつつ警察のない社会のビジョンをきちんと伝えていて、あまりこのトピックを知らない人向けとしてはそれなりに良い本。