Peter Bergen著「The Rise and Fall of Osama bin Laden」

The Rise and Fall of Osama bin Laden

Peter Bergen著「The Rise and Fall of Osama bin Laden

ビンラディンについての新しい本。著者は西側メディアで初めてビンラディンをテレビインタビューしたジャーナリストで、アフガニスタンやタリバン、アルカイダについての専門家。特に期待もなくなんとなく読んでみたんだけど、思ってた以上にアルカイダの内部やビンラディンの人となりについていろいろ知ることができて良かった。と同時に、あと付けなら何とでも言えると思いつつも、9/11も、アフガンやイラクへの侵略も、その後の長い戦争も、その時あった選択肢の中で十分防げたのになあという残念さを強く感じる。

アメリカによるビンラディン殺害は中東で「アラブの春」が起きていた時期で、それまでずっとアラブ各国の腐敗した非宗教的独裁者(エジプトのムバラク大統領など)を敵視していたビンラディンは、アラブ世界でこんなものすごいことが起きているのに、それがムスリム同胞団のような自分やアルカイダと対立する集団によって担われており、自分の存在感を示せていないことに苛立ったとか、なんとか「アラブの春」を自分の功績にして再び世界の政治の主役に返り咲こうとメディア戦略を練っていたとか、おもしろいと言うと不謹慎だけれど、興味深い。

あと初期のビンラディンが、ソ連に対抗するムジャヒディン勢力に資金提供するだけでなくアラブ諸国からジハディストを募って自ら指揮しはじめるにあたり、豊富な資金を武器に西側のビジネス的な階層的な組織や給与体系などを作ったわけだけど、その多くが現地のムジャヒディン戦士の意見を無視したかたちで、軋轢が会った様子。これ、完全に先進国の人道主義非営利団体が途上国支援でやらかしてる間違いと同じパターンで、既視感がすごかった。これまでビンラディンを国際人道・開発支援の一種として見たことがなかったので新鮮。

ほかにも家族にクーラーや冷蔵庫も使えない生活を強いたり、4人目の妻にそれまでの3人と同じくらいの年齢の女性を迎えると約束しておきながら16歳の少女を連れてきて3人から顰蹙を買ったり、隠れ住んだ基地からビンラディン本人が一切外出しないことについて同じ施設に住むボディガードの子どもが疑問を抱いたことにたいして「あのおじさんは貧しいから買い物に行けないんだよ」と説明されたりとか、逸話の量と質がすごい。

アメリカの対テロ戦争は9/11いらい米国本土での大規模テロを防ぐことには成功したけど、それ以外は失敗だらけで、アフガニスタンやイラク(やシリアなど周辺国)の人々を大勢犠牲にしてしまった。いまさら「あのときこうしていれば」は無理でも、今後の参考になる本。