Pauline Harmange著「Abortion: a personal story, a political choice」

Abortion

Pauline Harmange著「Abortion: a personal story, a political choice

前著「I Hate Men」が日本でも「私は男が大嫌い」として翻訳出版されたフランス人フェミニストの二冊目。ちゃんと避妊してたのに妊娠してしまい、経口妊娠中絶薬を使って中絶したこと自体は後悔していないけど、思っていたのと違う!と感じて二年半かけて書いた本。

著者は妊娠に早い時期に気づいたため、余裕をもって中絶することができたし、その費用も公的保険が適用されて、多くの国や地域の女性たち、あるいは情報や医療へのアクセスが乏しいフランス国内のほかの女性たちに比べたら有利な境遇にあった。経口妊娠中絶薬による中絶は人工的に流産を起こすもので、予想以上の速さで中絶自体は終わったものの、ただの医療行為と思っていた著者はその時に感じた喪失感、孤独感を予想していなかった。また痛みや出血がその後しばらく続き、フェミニストとして公的に発言しているのに避妊に失敗して望まない妊娠をしてしまったことに頭の中ではそんな必要ないとわかっているのに恥を感じた。

こんなことを書いたら「ほらみろ、妊娠中絶は女性にとって精神的ダメージやトラウマになる」と反中絶派の宣伝に悪用されると思いつつも、それを気にして発言しないことは妊娠中絶を選んだ多くの女性たちの孤独感を深めるだけだと思い、中絶を経験したほかの女性たちとの交流を経て原稿を何度も書き直して、ついに出版したのが本書。もし中絶する前に戻れたら、中絶をするのは変わらないけれども、一人で何事もないかのように薬を服用するのではなく、親しい友人たちに囲まれて行いたかった、という言葉が印象的。ちなみにこの本を書き終わった時点で著者は子どもを育てる意志を固めて妊娠しようとしているところ。

前著につづいて(少なくとも英語版で)100ページにも満たない短い本だけれど、こうした証言はもっと注目されてほしい。